ディープ・ブルー



★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

舞台はサメの脳髄を使ってアルツハイマーの研究をしている海洋研究所。知能が発達した3頭のアオザメ達が叛乱を起こして研究所を沈め、浸水する施設内に進入、逃げようとする研究者や社長などを襲い出す。


そう、『アビス』(1989)の沈み行く海底基地で『ジョーズ』(1975)の強暴なサメが襲い掛かってくるのがこの映画だ。この内容からして新鮮味に著しく欠如しているのは明らか。過去の映画の寄せ集め、パクリ大集合とはこのこと。遺伝子工学の結果生まれたモンスターが暴れる映画なんて腐る程あるし、海底基地が舞台のモンスター映画だって、ここ10年でハリウッドは『ザ・デプス』(1989)、『リバイアサン』(1989)と凡作を2本排出している(パチパチ)。おまけに監督はレニー・ハーリン。『ダイ・ハード2』(1989)、『クリフハンガー』(1993)で中々楽しませてくれたものの、その後の『カットスロート・アイランド』(1995)、『ロングキス・グッドナイト』(1996)でボンクラ振りを発揮。大金を湯水のように使った派手なだけの画面を作るものの、演出は大味で凡庸でヘタクソ、と馬脚を表した彼だ。これで期待しろと言う方がおかしいではないか。


ところがこの映画、意外だった。凡才なくせして「俺はA級大作アクションしか作らないんだ」というハーリンの驕り高ぶりが消え、先の2本で興行的・批評的に追い詰められて開き直ったかのよう。その結果、殆ど掟破りにサメが登場人物達を食って食って食いまくる怪作に仕上がっている。


そりゃぁハーリンの演出は進歩していない。サミュエル・L・ジャクソンLl・クール・Jサフロン・バロウズステラン・スカルスガルドらクセ者を起用しても登場人物は薄っぺら。サスペンスの盛り上げも上手いとは言えないし、基地内での位置関係も分かり難い。おまけに相変わらずの物量作戦、意味無く派手にやたら爆発が起こるときている。そもそもスピルバーグの名作とは次元が違う。画面の構図だってスピルバーグの格好良さに負けているし、ついでにトレヴァー・ラビンの音楽も、ジョン・ウィリアムズのあの有名な不気味迫力テーマ曲と比べるのは可愛そうだ。


まるで良いこと無しに聞こえるが、事実その通りなのだから致し方ない。ところがこれが観ている間は楽しいのである。思わず足がびくっとなるシーンが随所にあり、それも意表を突いて「この人物まで食わせるか!」と突っ込みを入れたくなるほど。特にある人物がいきなりがぶっ!と食われるシーンなぞ、驚きの余りに笑ってしまった。本国アメリカでは拍手喝采だったでしょうな。作り手が終始必死になって、観客の裏を書こうとしゃかりきになっているのが可笑しい。


そう、この映画はポップコーン片手に気楽に楽しむ代物だ。「自然に対する冒涜の報い云々」などというお説教を求めるのは筋違いというもの。観ている間は楽しめて、大勢の人が八つ裂きになるのに血の匂いや生臭さも悲しみも無く(八つ裂きもCGIだから)、後には何も残らない。良く考えると、人間の尊厳なんぞまるっきり無視というヒドい映画ではないか。サメ並の知能で作ったをはいえ、ここまでB級に徹していると作り手の潔さがかえって清々しくさえ感じられる。


観客にショックを与える為なら手段を選ばず、というのはかつてのカッコつけてたレニー・ハーリンからは想像も出来なかったこと。でもフィンランドから渡米した当初は、『プリズン』(1988)、『エルム街の悪夢4』(1988)などのホラーをやっていた監督だ。初心に戻った、というのはちと大袈裟だろうか。


ところで先程から「B級B級」と言っているが、映画はワーナー・ブラザースというれっきとしたメジャー会社の、しかも製作費も十分に掛けた大作規模の作品。セットや特撮には相当お金を掛けている。でも志はどう見てもB級。それがこの作品の格なのである。


それにしても、今更こんな映画の企画がメジャーで通るのが一番の不思議ではないだろうか。


ディープ・ブルー
Deep Blue Sea

  • 1999年/アメリカ/カラー/105分/画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for graphic shark attacks, and for language.
  • 劇場公開日:1999.10.2.
  • 鑑賞日:1999.10.10./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘2/ドルビーデジタル
  • 翌日は振り替え休日の公開2週目、新百合ヶ丘では割かし大きめの劇場のレイトショー。280人分の座席は指定も含めてほぼ満席だった。終了後は「面白かったね」という声がちらほら聞こえたのですから、ウケは良かったようです。
  • 公式サイト:http://www.deepbluesea.net/ マウスポインタがサメの形に変わるのがご愛嬌です。研究所の各フロアを模した階層など、凝った作りです。ストーリーボードやゲームもあって楽しめます。但し、スクリーンセーバーは圧縮で7MGBもあるので、ダウンロードの際はご注意を。サメの脳のスキャン映像(笑)という代物です。