ホーンティング


★film rating: C+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


何故か最近流行りのホラー映画、その中でも大作の『ホーンティング』のご紹介。

心理学者リーアム・ニーソンは、大学で”恐怖”の研究をしている。彼は不眠症の実験と称して、3人の男女(リリ・テイラーキャサリン・ゼタ=ジョーンズオーウェン・ウィルソン)を集める。場所は広大な屋敷ヒル・ハウス。そこは忌まわしい過去を持つ館で、ニーソンにとっては格好の心理実験の場所だった。ところがその屋敷は実際に亡霊が現れる、本当に呪われた場所だったのだ・・。


幽霊屋敷もののセオリー通りの展開を見せるこの映画、原作はシャーリー・ジャクソンの代表作『山荘奇談』。最近『たたり』というタイトルで新訳も出た名作だが、残念ながら僕は未読。ジャクソンでは『くじ』という、強烈な短編は読んでいるのだが。そして今回のこの映画、1963年に製作された名作『たたり』のリメイクでもある。ロバート・ワイズが『ウエスト・サイド物語』(1961)と『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)の間に監督した作品。要はこの映画、企画不足のハリウッドが贈るリメイクものの1本なんだな。


そういえば70年代に『ヘルハウス』(1973)という名作映画があった。リチャード・マシスンの原作も、4人の男女が亡霊屋敷で実験するという内容だった。マシスンに『山荘奇談』との関連も聞いてみたいものだ。


閑話休題


さて映画は最近の大作の例に漏れず、後半は予想通りに視覚効果と音響効果の釣瓶打ちだ。亡霊や変貌する屋敷の視覚効果を担当したのは、『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997)で虫軍団を製作したフィル・ティペット。『スター・ウォーズ 旧3部作』でモンスター系の特撮を担当していた、元モデル・アニメーターだ。彼の古巣であるILMと共同で特撮を担当しているので、事前はかなり期待していた。しかしそれに反して、技術的にはともかく、特に斬新な映像はここにはなかった。2〜3箇所は驚かされるシーンもあるにはあるのだけど。


特撮目当てだとがっかりするだろうが、音響目当ての人だったら満足するのではないか。真夜中、屋敷で巨大な何かが蠢く(?)音、観客の背後で左右に移動する不気味な音、どれも丁寧に作られている。鑑賞するのであれば、デジタルサウンド上映の劇場をお薦めたい。


上記のような最新技術を駆使しているにも関わらず、少しも怖くないのがこの映画最大の難点だ。ホラー映画ファンには既に不評なのもむべなるかな。


特撮技術の発達により、映画業界は観客に”見せる”ことに腐心してきた。それが逆に足を引っ張り、観客から想像力を奪ったとも言える。特にホラー映画で一番恐ろしいのは、何も見えない”闇”である。そこに何が潜むのか分からない、色々想像してしまうから恐怖を覚えるのだ。


実はこの映画で唯一怖かったのは、派手な特撮や音響を使ったシーンではない。リリ・テイラーが地下で発見した、古いアルバムを繰るシーン。ぱらぱらめくっていくと、写真の中の夫人が自分の後ろにある暖炉を指差していく。こういったシーンをもっと見たかった。


監督はヤン・デ・ボン。製作はスピルバーグのドリームワークス。両者のコラボレーション『ツイスター』(1996)を観ての通り、資質が元々アミューズメント・パーク系なので、禍禍しさを求めるのは筋違いだったのだろう。しかし、一流スタッフや巨大なセット(これは素晴らしい)を揃えて期待させておきながら、怖いシーンが1つだけというのでは欲求不満も溜まってしまう。本来なら狂気を孕ませるメリーゴーランドのシーンも、単なるアトラクションとしてしか捉えていない。このシーンでは、御大ジェリー・ゴールドスミスがシーンの意味を汲み取って不気味なワルツを提供しているのに、監督がそれを作品に反映出来ていない。監督よりも作曲家が理解しているなんて! ヤン・デ・ボンはホラーを分かっていない。物量投入だけの勘違いをしている。


映画は2時間弱の間に左程退屈させられることはない。しかし『ホーンティング』は、期待して開けたら何も無かった、空っぽのびっくり箱だ。


ホーンティング
The Haunting