エントラップメント


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


大泥棒と美人保険調査員の駆け引き・・・というと、スティーヴ・マックィーンフェイ・ダナウェイ共演の名作『華麗なる賭け』(1968)が思い起こされる・・・というのは半分本当で半分嘘。小学生のときに一度テレビで見たけど(土曜昼間だった)、肝心の作品の出来映えは記憶にない。飛行機内でのラスト・ショットは覚えているんだけどね。実際に『華麗なる賭け』を思い起こされるのは、1969年という製作年度を考えると40歳くらいの方だろう(近々ピアース・ブロスナンレネ・ルッソのリメイクが公開されるが、邦題が原題をカタカナにしただけの無粋な『トーマス・クラウン・アフェアー』。それだけで観る気が失せる)。


あるいはヒチコックの50年代の名作『泥棒成金』(1955)なんてのもあります。やはりこちらも小学生のときにテレビで観た。ケイリー・グラントが泥棒を、グレース・ケリーがヒロインだった。スターの華やかさが良く出たロマンティックな映画、というくらいしか記憶にないけどが。


つまりは、泥棒対美女というのは使い古されたプロットだ。ここは大スターの男優にイキの良い美女に出演して欲しい。さらに作者たちの腕の見せ所でもある。単にスターの威光を借りるだけでない、工夫が求められるのだから。


何でこんな話しを持ち出すかというと、ハリウッドの『エントラップメント』もまさしくそのような内容だから。残念ながらロマンティシズムの雰囲気は薄く、その分どんでんがえしを含めた男女の騙し合いと、いかに財宝を盗み出すか、というミステリ/サスペンス/アドベンチャーものの色彩が濃くなっている。


レンブラントの名画が厳重な警備システムを掻い潜って盗まれる、ニューヨーク高層ビル街でのオープニング。このシーンからワクワクさせられる。どういった手順で謎の黒装束の人物が名画を盗み出すか、という興味も満たされる快調な出足だ。敏腕保険調査員のジン(キャサリン・ゼタ=ジョーンズ)は、美術品専門の大泥棒マック(ショーン・コネリー)の仕業と睨む。保険調査の為に彼女はマックに近付いて自分が泥棒だと名乗り、パートナーにならないかと持ち掛ける。


先に書いた冒頭での盗みのシーンに続き、舞台はイギリスに移ってマックの根城での用意周到な準備。そして宮殿から黄金のマスクを盗み出し、クライマクスのマレーシアへ。世界一高い双子ビルにある銀行から、80億ドルを盗み出そうという途方も無い計画。西暦2000年問題を突いた、巧妙なプランの成否や如何に。


この映画の主役は、いつもながら老練さと茶目っ気を持ち合わせる魅力的なショーン・コネリーではない。意外なことに、実はこの映画の主役はキャサリン・ゼタ=ジョーンズなのだ。彼女が、コネリーと物語と、そして観客をも引っ張る。ジョーンズは精一杯溌剌としてて、コネリーに負けじとスコープの大画面で文字通りの奮闘を見せる。


身体の柔らかさを見せ付ける演習シーンや、レーザー光線で張り巡らされた警備システムに潜入するシーンも、アクションもののヒロインとして違和感がない。前作『マスク・オブ・ゾロ』(1998)で注目された後の今作、大型美人スターの誕生を予感させる。濃い顔立ちからラテン系と間違えそうでも、実はイギリス人とのこと。その人目を引く猫系の顔立ちと上背という多少の現実離れしたルックスが、ハリウッドの大型映画に似合う。特に今回は泥棒が活躍する浮世離れした内容なので、彼女の存在感がひときわ輝くのだ。次回作の『ホーンティング』(1999)ではどんな存在感を見せてくれるのか。注目だ。


ロン・バスとウィリアム・プロイルズの脚本は見せ場の盛り上げには注意を払っているが、微妙な感情のふくらみにまではその注意は行き届いていない。またジョン・アミエルの演出は、脚本の随所にある伏線とその後の種明かしを、驚きでもって観客に伝えることに失敗している。本編に3回ある大掛かりな盗みの見せ場や、高所のクライマクスなどは緊迫感もあって楽しめるが、微妙なドラマ部分の浮き彫りは繊細さに欠けているのだ。さらにどんでん返しが幾重にも仕掛けられているが、ラストは少々やり過ぎた感が強い。このラストと映画全体に決定的に欠けているのは、「粋」だ。最近のハリウッド大作にそれを求めるのは酷なのだろうか。


・・・といった難点はあるのだが、僕はこの映画を大いに楽しんだ。この映画が過去の名作と並列に論じられることは無いだろう。それでも劇場の大画面で観るには十分に映える作品だ。何しろ大スターと美女、スリルとユーモア、大掛かりな見せ場には事欠かないのだから。大きなカップに入った薄口アメリカン・コーヒーも、時に美味いときがあるのだ。


エントラップメント
Entrapment

  • 1999年 / アメリカ / カラー / 113分 / 画面比:2.35:1
  • 劇場公開日:1999.8.14.
  • 鑑賞日時:1999.8.16.
  • 劇場:渋東シネタワー1 ドルビーデジタルでの上映。渋東シネタワーの2番目に大きい劇場、お盆明けの平日月曜昼前からの回、825席の劇場内はほぼ満席。
  • 公式サイト:http://www.foxjapan.com/movies/entrapment/