恋におちたシェイクスピア



★film rating: A+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


これは映画を観る喜びを満喫できる傑作だ。コスチューム劇なんて、と敬遠する人もいるだろうが、現代的な視点も踏まえた映画になっていて、お勧め出来る仕上がりである。


主人公は無論シェイクスピア(ジョゼフ・ファインズ)。でも有名な肖像画にあるような、禿げて口髭を生やした不細工な(?)男ではなく、ハンサムで若い、悩める青年としての登場。ライターズ・ブロックに落ち入った彼は、コメディ『ロミオと海賊の娘エセル』の執筆も遅々として進まない。そんな執筆と同時進行で進められたオーディションに現れたのが、トマス・ケントという美男子。その演技に惚れこんだシェイクスピアは、彼を追って大邸宅に辿り着く。そこで出会ったのが新興財閥の娘ヴァイオラグウィネス・パルトロウ)。実はトマス・ケントの正体も、演劇好きな彼女の扮装だった。当時は女性が舞台に立つのを禁じられていた時代。彼女は自分を抑えきれなかったのだ。たちまち恋に落ちる2人だが、ヴァイオラにはエリザベス女王に認められた貴族(コリン・ファース)との結婚が迫っていた。現実の恋にリンクするかのように、『ロミオと海賊の娘エセル』は、有名な悲劇『ロミオとジュリエット』へと変わっていく。


主人公2人の関係は悲恋に終わるのが観ていてすぐに分かるのだが、それでも抜群に面白い、快調なテンポの作品だ。恋愛の陶酔/喜び/苦しみもきっちり描かれて説得力があり、それが抜群の演出と脚本、配役に支えられている。


現実の恋愛と執筆中の戯曲が同時進行で進められていく語り口の、何と上手いことよ。このシナリオを手掛けたのは、マーク・ノーマンと英国演劇界の大物トム・ストッパード。ストッパードは『未来世紀ブラジル』(1985)の複雑なシナリオも書いた、有名な劇作家でもある。単純に娯楽としても楽しめ、しかも複雑な構成とシェイクスピア作品も色々と包括した内容に、いち映画ファンとして堪能した。この映画最大の成功はこのシナリオだ。主役のみならず脇役にまできちんとドラマがあり、しかもそれがでしゃばらない。飽くまでも脇は脇なのだ。その匙加減も絶妙である。


ジョン・マッデンの演出は映画的魅力満載で、躍動感に満ち満ちている。笑いと感動を上手く織り込み緩急自在、クライマクスの緊張感と盛り上げなども見事なもの。さらには流麗なキャメラワーク、ゴージャスな衣装やセット、スティーヴン・ウォーベックの華麗でわくわくさせられる音楽など、皆一流の仕事である。それら1つ1つが芸術的でありながら、下手な自己主張をせずに作品に貢献しているのだ。


達者な役者達も皆素晴らしい。中でもグウィネス・パルトロウ。今までは表情も硬くて余り好きではなかったのだが、今回は男装シーンまでも伸び伸びと演じていて、シェイクスピアのミューズに成り切っている。シェイクスピア役のファインズとの呼吸もぴったりだ。エリザベス女王ジュディ・デンチも圧倒的迫力。出番は8分と少ないのに、登場するとその場をさらってしまう。


この作品、シェイクスピア作品に造詣の深い人なら、きっとより良く楽しめるだろう。僕自身はこの映画に関連あるので知っているのは『ロミオとジュリエット』と『十二夜』くらい。それでも楽しめたのだから、さらに詳しい人はもっと楽しめる筈。でもシェイクスピアなんて知らないよ、という人も心配御無用。きちんと独立した映画として面白いのだから。


観ている間も楽しいが、観終えてからも色々としゃべりたくなる作品だ。こういった映画の至福を味わえたのは、去年の『L.A.コンフィデンシャル』(1997)以来だった。


恋におちたシェイクスピア
Shakespeare in Love

  • 1998年 / アメリカ、イギリス / カラー / 124分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for sexuality.
  • 劇場公開日:1999.5.1.
  • 鑑賞日:1999.5.1./ワーナーマイカルシネマズ新百合ヶ丘2
  • ドルビーデジタルでの上映。公開初日の土曜レイトショー、280席の劇場は満席。
  • パンフレットは作品の”虚”と”実”を丁寧に解説してあり、鑑賞後に読まれると楽しさ倍増。