ムーラン


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


ここ数年のディズニー・アニメの成功により、メジャー各社はアニメ市場に名乗りを上げ、ディズニーのエピゴーネンを製作しているようだ。が、今回のディズニー作品は、それらを笑い飛ばすかのような、今までのいわゆる”ディズニー・アニメ”とは一味違う作風で、しかも嬉しい事にきちんと快作に仕上がっている。


本作は中国の漢詩にある、男装の美少女ムーランの物語をアニメ化したもの。フン族の襲撃により徴兵が発令される。各一家で男子1名を戦場に送り込まなければならないのだ。老いたる父を戦場に送り込むのは、むざむざ死地に追いやるもの。そこで娘ムーランは、家の名誉を守る為に男装して戦場へと向う…。


そんな内容だから、初めからムーランは強いものだと思ったら、これが全然そうでないのが面白い。ケンカも駄目、訓練でもビリっけつ、もう除隊しようかとまで思い詰めてしまう。今までのディズニー作品には無かったキャラクターだ。だが何とか知恵を働かせて訓練の成果を上げ、実戦でも機転を働かせて活躍するようになる。力に任せるのは男にやらせておけばいいのだから(どうせ肉体的に不利なんだし)、主人公がが頭を使うアクション・ヒロインになっていくのは何とも観ていて気分が良い。余り美人でもないルックスもあって(失礼!)余計に親近感が沸く。なんだ、結局アンタは女を捨てて男になりたかったのね、という怪作『G.I.ジェーン』(1997)のデミ・ムーアとは大違いである。


ディズニー・アニメといえばミュージカルなんだけれど、この作品では歌曲が少ないのも特徴だ。デヴィッド・ジッペル(作詞)とマシュー・ワイルダー(作曲)の歌も楽しいが、実際に劇中で流れるのは数曲。ちょいと西洋人がイメージする中国っぽくて、アジア人から観るとくすぐったい。むしろ御大ジェリー・ゴールドスミスのアクション・スコアの方が映画に合っている。これがまた素晴らしい出来映えで、映画自体がいわゆる「ディズニー・アニメ」の雰囲気と少々違うのはこれのお陰もある。ムーランのテーマの凛とした美しさ、フン族の低音を生かした不気味な楽曲、そしていかにもゴールドスミスらしい豪快なアクション・スコア。紛れも無く彼の傑作の1つである。


声の出演はここ何年かの大作アニメの傾向通り、中々豪華なキャスティング。ムーランの守り神でありながら、出来損ないのドラゴン役エディ・マーフィが、『アラジン』(1992)のロビン・ウィリアムスもかくやという大爆笑ものの快演。でも『アラジン』自体がウィリアムス1人の魅力に負う所が多かったのに対し、こちらのマーフィは笑いを取りつつきちんと脇役なのだ。作品自体がしっかりしていることの証しだ。フン族族長シャンユー役ミゲル・フェラーはコミカルさが一切無い、かなり真面目でおっかない悪役振り。そこがまた魅力的な敵役振り。これもディズニーアニメとしては異色だ。その他パット・モリタジョージ・タケイ、B・D・ウォン、ムーラン役ミンナ・ウェンなど、実際にアジア系の役者が声を当てているのも、世評を気にするディズニーらしいこだわりか。


作画の薄めな彩色が品良く、1970年代の東映アニメのようで懐かしささえ覚える。 『美女と野獣』(1991)、『アラジン』などの派手な色使いとも違っていて面白い。


1時間半、笑いもアクションも楽しめる快作アニメである。


ムーラン
Mulan