ゼロ・グラビティ



★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

高度600kmの軌道上で、スペースシャトルがスペース・デブリ(宇宙のゴミ)に当たり大破、船外活動中だった医療技師のライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)と、ヴェテラン宇宙飛行士マット・コワルスキー(ジョージ・クルーニー)だけが生き残ってしまう。地上との通信は途絶え、2人を繋ぐのは命綱のみ。残っている酸素はわずか。絶体絶命の状況下、2人は必死に地球への生還を目指すが。


上映時間91分。舞台は殆どが宇宙空間。登場人物は殆ど2人のみ。これだけ聞くと地味な小品に思える向きもありましょうが、冒頭の10分程(しかも1ショット映像)を除いては危機また危機のアクション・スリラー映画としても観られる映画なのです。無駄な人物やドラマ、場面やショットですら削ぎ落としたかのような作りですが、サンドラ・ブロック演ずるストーン博士のドラマも描かれており、密度の濃い1時間半でした。


何よりも壮大な映像が物凄い。ドキュメンタリ調に臨場感あふれるものとする為に、極力1場面を1ショットに収めようという強い意志で作られた映画は、何しろ冒頭の船外活動から事故に至るまでの十数分が1ショット(に見えるように)撮られているのです。キャメラは何百キロもの遠くから、時にはヘルメットの中にまで入り込み、また主観映像にすらなります。最新技術を投入した映像体験は他に代えがたいもの。3D効果によって宇宙空間の「深さ」がより体感出来るようになっているし、また無重力空間に浮かぶ物体も、時にはドラマを効果的する役目すら担っているのです。強烈なのは宇宙空間の恐怖です。上下左右も分からず、ただ深淵に投げ出されたヒロインおののきが体感できます。まずは3D上映での鑑賞を、出来れば高画質大画面・大音響のIMAX上映を強くお勧めします。


そしてサンドラ・ブロックです。正直に言って彼女が、演技者としてこんなに素晴らしい女優だとは思いもしませんでした。感情の起伏や人物の変化を見せつつ、多面的な人物像を見せてくれるし、しかも感動的な場面は彼女の演技によるところも大きい。文字通りこの映画を背負って立っています。軽妙なクルーニーの好演も見逃せません。ブロックとの対比にもなっていて、儲け役で印象に残るものとなっていました。映画は1人の女性の死闘を描きつつ、普遍的な「生と死」に関するドラマになっており、こちらも面白い。劇中で幾度か登場する再生もしくは誕生のメタファーは、本作に大きな影響を与えている『2001年宇宙の旅』とリンクするもの。実際、あちらや『バーバレラ』を想起させるイメージは幾つもあり、それらに気付いて微笑みを浮かべられるのも、SF映画ファンならではの楽しみです。そして終始続く緊張感の後、原題の「重力」の意味が明らかになる力強いラストに感動が待っています。


現実の宇宙空間では音はありませんが、本作は独自のルールを設けています。基本的に人物が触れたものしか音がしません。つまり触感を音で表現しているのです。もっとも、物語が進行するに連れてルールは破られ、効果音が大きくなっていきます。後半の劇的効果を盛り上げる為なのでしょうが、『2001年』以来の宇宙では音がしない映画を期待していたので、少々残念でありました。


脚本はいささかのご都合主義に彩られ、おかしな描写も散見されます。余り科学的、現実的に見るのはお勧めできません。しかし強烈なスリルとサスペンスで引っ張る演出と、演技によるパワーによる世界に、ここは浸りたいものです。


スティーヴン・プライスの音楽は、マイケル・ナイマンの『ガタカ』を思い出させる哀愁を帯びた旋律もあるものの、こちらもヒロインの心理を描こうとしていて効果的でした。

ゼロ・グラビティ
Gravity

  • 2013年|アメリカ、イギリス|カラー|90分|画面比:2.35:1|2D撮影、2D/3D上映作品
  • 映倫(日本):G
  • MPAA (USA): Rated PG-13 for intense perilous sequences, some disturbing images and brief strong language.
  • 劇場公開日:2013.12.13.
  • 鑑賞日:2013.12.20.(1度目)、2014.1.4.(2度目)
  • 劇場:ユナイテッドシネマとしまえん8(1度目)、109シネマズクランベリーモール7(2度目)/デジタルIMAX 3D鑑賞。公開2週目の金曜16時15分からの回、345席の劇場は30人程の入り(1度目)。年始土曜10時5分からの回、361席の劇場は6割程の入り(2度目)。
  • 公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/gravity/ 予告編、壁紙、「宇宙遊泳を体験しよう」など。