ワールド・ウォー Z



★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

突如パンデミックが世界を襲った。何かに感染した人間が人間を噛み、噛みつかれた者は瞬く間に噛みつき魔へと変貌するのだ。元国連の凄腕調査員ジェリー(ブラッド・ピット)は、軍の要請により科学者に同行しての情報収集補佐と対処を、半ば脅迫のように依頼される。妻子らをを保護してやる代わりに、調査員として復帰せよ、というのだ。家族の為に、そして未曽有の危機を収拾する為に、ジェリーは世界中を飛び回るのだが。


アクションとスリルとサスペンスとスペクタクルの連打で、序盤から終盤まで弛緩する事無く飽きさせない娯楽大作として、まずは楽しませてくれます。危機また危機で手に汗握る場面が続出し、予想以上に面白かったです。そしてこれは予想もしていませんでしたが、ボンド映画でした。ジェームズ・ボンドが危険な仕事に嫌気が差して引退して家族を持ったものの、ゾンビ・パンデミックの絶対的危機に陥った世界を救うべく復帰し、地球を股にかけて大活躍する映画なのです。何しろブラピ演じるジェリーは無敵。知力体力運動能力が抜群で、銃器のプロフェッショナルであり、飛行機も操縦でき、瞬時に様々な判断を下せ、状況から真相を察する推理力を持っているのですから。これはもう、ジェームズ・ボンドに他なりません。ダニエル・クレイグと同じくブロンドなのも、ボンドを意識しているから…というのは穿ち過ぎですが(但しこちらはロン毛)。任務遂行の為ならば幾ら犠牲が出ようとも意に介さないのも、如何にもジェームズ・ボンドらしかったです。


世界規模のパンデミック映画となると、スティーヴン・ソダーバーグの佳作『コンテイジョン』がありました。あちらがリアリズム志向のスリラーだったのに対し、こちらは徹底した娯楽アクション巨編仕立てになっています。パンデミック映画は過去に幾つか名作があるものの、これはゾンビ映画として、パンデミック映画として記憶に残る作品になりました。


自分の子供達も含めた家族で観られる映画を目指したと、プロデューサーでもあるブラピが言う通り、暴力描写は抑え目にしてのアクション満載映画でもあります。手を変え品を変えての危機的状況を、場面ごとにそれぞれ趣向を凝らした見せ場を用意して、単調にならず飽きさせません。マックス・ブルックスの原作をお読みの方はお分かりの通り、小説ではゾンビ大戦後の生き残りに国連職員が聞き取り調査をしてまとめたもの、という口述歴史スタイルの言わば証言集です。ですから戦争の大きな流れはあるものの、粗筋が余り前面に出ないものでした。そのままでは映画にならないと、特定の主人公を据えた大作娯楽アクション映画へと思い切って舵取りしたプロデューサー達(ブラピもその1人)は、相当の目利きですね。アクション場面が接写ぐらぐら手持ち撮影で分かりにくいのが散見されるのは、監督マーク・フォースターの前作『007/慰めの報酬』同様で、これはちと頂けませんが。それでもVFXを使いまくった引きのショットの数々は壮観そのもの。「こんな映像、観た事がない」というものが多く、これらだけでも劇場の大画面で観る価値があります。


但し残念ながら結末はいささか腰砕けになっています。派手だったらしいクライマクスをわざわざ撮り直した、という話もあります。3部作構想も伝え聞きますし、この終盤は次回作に繋げる為かも知れません。もし本当に3部作にするのなら、最後は原作のような超ド派手な展開を用意してもらいたいものです。


3D上映の効果はまぁまぁと言った所。3Dを意識した構図は多いですが、実は1番3D効果があったのは冒頭のタイトルデザイン。これが良く出来ていて、もしやと思ったら、やはりカイル・クーパーの仕事でした。このデザインと序盤の迫力満点な世界崩壊の描写が、同じくクーパーがデザインした『ドーン・オブ・ザ・デッド』を想起させます。


それにしても、大スターが製作主演のゾンビ超大作映画が作られるとは、時代も変わったものです。ハラハラドキドキのジェットコースター映画を望む方には、この映画をお勧めしましょう。


ワールド・ウォー Z
World War Z

  • 2013年|アメリカ、マルタ|カラー|116分|画面比:2.35:1|2D撮影/2D・3D上映作品
  • 映倫:G
  • MPAA (USA): Rated PG-13 for intense frightening zombie sequences, violence and disturbing images.
  • 劇場公開日:2013.8.10.
  • 鑑賞日:2013.8.12.
  • 劇場:品川プリンスシネマ シアター3/デジタル3D鑑賞。公開3日目の月曜21時5分からの回、劇場は20人程の入り。
  • 公式サイト:http://www.worldwarz.jp/ 予告編、作品紹介等。