エージェント・マロリー



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

政府御用達の民間工作会社の凄腕エージェント、マロリー(ジーナ・カラーノ)は、田舎町のダイナーでいきなり同僚アーロン(チャニング・テイタム)に襲われる。危機一髪逃れた彼女は、ダイナーに客として居合わせたスコット(マイケル・アンガラーノ)を強引に引きずり込み、彼の車を奪って逃走。道中、マロリーはスコットに事の経緯を話すが、元恋人で会社社長ケネス(ユアン・マクレガー)が差し向ける工作員達は、執拗に追って来る。


工作員が組織に裏切られて逃走、逆襲に転じて行く…というのは手に垢の付いたプロットもいい所です。近年のそれの代表はジェイソン・ボーン・シリーズでしょう。そのスピン・オフ『ボーン・レガシー』だって同じです。ですから本作も元々話には期待していませんでした。監督は曲者スティーヴン・ソダーバーグ。その彼がアクションをどう撮るか興味津々でしたが、こう来ましたか。1970年代の映画のようにじっくりこってりで、人を殺すのは一瞬ではなく、時間が掛かります。観ていて痛そうなリアリズム路線。ボーン・シリーズのような神経症的編集は一切無く、役者の身体の動きを見せます。何度か足を使った追跡場面があって、これも延々撮っていました。トラックバック撮影の多用だけ観ると、『アウトランド』等での往年のピーター・ハイアムズみたいでしたが、もっと重みがある感じです。ヒロインの息遣いもリアルな音響でしたから、格闘・殺人場面も生々しい。これが結構な迫力で重厚でした。


話は大した事ないし、上映時間も90分強と小ぢんまりした作り。これはソダーバーグの語り口、ジーナ・カラーノの身体能力の高さ、倒される男優陣の顔ぶれを観る映画です。これが楽しかったのですよ。時制の交錯といった編集技もソダーバーグらしいし、ミヒャエル・ファスベンダーマイケル・ダグラスアントニオ・バンデラスといった顔ぶれも面白い。カーチェイス場面のまさかのアクシデントも、劇場で声を出して笑いました。まぁしかしです、やはり動けるアクション女優の誕生は嬉しい。ジーナ・カラーノの動きだけで映画の印象が決まるとは思いもしませんでした。ソダーバーグは彼女に寄り添って撮っています。細かくない編集も彼女の重みのあるアクションを生かす為。文字通り主役を生かす為のスタイルを採用した映画は、近年では珍しいのではないでしょうか。


ソダーバーグとは傑作『アウト・オブ・サイト』でも組んでいたデヴィッド・ホームズの音楽もあって、益々70年代調。ラストもバッサリあっさりで良かったです。ふらり劇場に入って短い時間楽しめる、そんな映画でした。


エージェント・マロリー
Haywire