桐島、部活やめるってよ



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


金曜日。とある高校の男子バレーボール部キャプテン桐島が、部を辞める事になります。それが原因で同級生数名に波紋が及ぶ…というのが主な内容。明確なプロットがある訳ではなく、主役が1人と決められている訳でもない群像劇です。劇中では特に触れられていませんが、エンドクレジットを見るとロケ地は高知市となっています。


朝井リョウの同名小説を吉田大八が監督、脚本(喜安浩平と共同)を担当して映画化した本作。題名は何度聞いても憶えられませんが、映画自体は心に残る佳作でした。まぁしかしです。青春映画でスタンリー・キューブリックの名作『現金に体を張れ』をやるとは!同作はギャング映画の古典。同じ時間での複数の人物の行動を多元描写し、映画史に名前を残した映画です。後にクエンティン・タランティーノが『レザボア・ドッグス』でその構成を真似したのでも有名ですね。例えばこういう事です。映画はAという人物の行動を追います。それが終わったら、次に映画は時間を巻き戻して、同じ時間帯でのBという人物の行動を追います。本書の原作は未読ですが、元からそうなっているのではなさそう。いや、かなり脚色されているのではないでしょうか。それくらい随所に映画独自の表現、映画ならではの興奮がありました。


それにしても、です。自分の高校時代を思い出しながらの鑑賞は、中々楽しい体験でした。かくいう私は(殆ど)帰宅部。軽音みたいなのもやってましたが、同級生とだべっていただけでした。その当時私が抱いていた、進学も含めた将来という、来たるべき現実への漠然とした不安も、きちんと劇中の登場人物たちのそれとして描かれていました。開巻早々に出る「金曜日」のテロップで一通りの時間が描かれ、次に再び出る「金曜日」というテロップで「これは…?」と訝しく思い、そこから描かれる多元描写に感心し、三度目の「金曜日」で密かな興奮とスリルを感じました。久々にお目にかかる手法でしたが、個々人のドラマと、彼らが共有している時間を描く必然として、非常に上手く機能していました。こう書くと深刻な日常を地味に描いたかのように思われそうですが、実際にはユーモアの挿入が楽しい。大事件が起こらずとも十分に面白いのです。


終盤に用意されている屋上の場面は、映画的カタルシスに満ちていました。画と音のシンクロ。感情のシンクロ。いやスケールは小さくとも盛り上がります。これが映画だ、と。全員が想いを成就出来る訳ではなく、特に大きな展開とか進展とかもありません。だからこそ日常の心の揺れは十分に描けています。心理描写の説明調台詞が最小限なのが品良く、逆に映像は饒舌にさえ感じました。『桐島、部活やめるってよ』は、明るく陽気で前向きばかりが青春映画ではないとばかりに言いたげな、しかし軽快でユーモアを忘れずに高校生たちの内面を切り取っています。


桐島、部活やめるってよ
The Kirishima Thing

  • 2012年 / 日本 / カラー / 103分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):-
  • 劇場公開日:2012.8.11.
  • 鑑賞日時:2012.8.14.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜6/デジタル上映。世間ではお盆休みの平日火曜、20時40分からの回。毎月14日のTOHOシネマズデーで1人一律千円だからなのか、お盆休みの火曜夜は20人以上の入り。評判は上々なのに興業的には今一つを伝えられていたが、この後、ネットで口コミが広がり、興業的成功を収めたのは結構な事。
  • 公式サイト:http://kirishima-movie.com/ 予告編、作品情報、特別動画(WOWOWでのみ放送されたCF)等。