おおかみこどもの雨と雪



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

東京大学の学生、花(声:宮崎あおい)は、講義で知り合った「おおかみおとこ」(声:大沢たかお)と恋に落ちる。やがて2人は、元気活発な姉の雪と、内気で大人しい弟の雨をさずかった。しかし彼らは「おおかみおとこ」と人間の合いの子。感情が高ぶると「おおかみ」に変身してしまうのだ。都会で人目を避けて育てるのに限界を感じた花は、家族で緑豊かな山あいの田舎の集落に越す。大自然の中で伸び伸びと育つ2人だったが、彼らには選択の時が迫っていた。


映画が終わると、子連れ団体引率係と思しき女性は目を真っ赤にして、「号泣しちゃったよ」。子育てをした人にとっては感じるものが多い映画なのでしょう。事実、私も中盤までは心の琴線に触れたりしました。後半の展開は私自身が経験するのはまだ先だと思っているからか、自分でも意外にも涙腺が刺激されませんでした。でもそうか、親の知らない内に子供は育つというから、ね…。


私は細田守作品は初めてです。『時をかける少女』も『サマーウォーズ』も、確か近所のシネコンでは上映していませんでした。ですが本作はあちこちのシネコンで上映され、回数も多い。気軽に観られるようになったのは有り難いものです。今回、大画面で観て良かったと思いました。CGを使いまくった精緻な背景は、大画面鑑賞に相応しい画そのもの。時には実写動画をトレースしたかのような場合も少なくありません。その手前でアニメならではのデフォルメされた、簡素な線のキャラクター達が活き活きと動き回ります。その様を観るのは、ちょっとした体験、アニメ映画ならではの悦楽でした。まずこの1点だけでも、この映画をお勧めする理由になります。


映画には登場人物それぞれに込められたテーマがありました。各々が明確に描かれ、腑に落ち、納得の行くものでした。ときにユーモラスに、ときにさらりと描かれた子供たちそれぞれのドラマも印象的ですが、私自身が親なので、「親である事」というテーマがやはり心に残ります。でも実生活で親でなくても、これは十分に楽しめる映画だと思います。子供であっても親であっても、人は成長していくに従って変わっていくというのが、映画の主軸たるテーマだと解釈しました。そうすると、ほら、子持ちでなくとも想像しやすいでしょう?


終盤には嵐の中で花が山探しする場面が用意されていて、事実上のクライマクスとなっています。これがかなりこってりと描かれていたので、少々長く感じてしまいました。これはピクサージブリ等の、テンポ重視のアニメーション映画に慣れているからかも知れません。劇中での花は、優しく礼儀正しく、愛情深い頑張り屋で、何事もあっさり受け入れてしまう、一見「理想の母」として描かれています。しかし本当にそうなのでしょうか。彼女が夫(事実婚?)のみの介助で、自室にて出産するのは、子供と自分の命を軽く見ているのではないか。子供が異物を飲み込んだときに病院に連れて行かないで電話だけで解決するのは、単に運が良かっただけなのではないか。秘密を守る事ばかりにこだわり過ぎているのではないか。映画は成長した雪の落ち着いたナレーションがかぶせられ、その声は主に肯定調です。しかしこれは飽くまでも娘の主観であり、 また母から聞いた情報を基にしているもの。描かれている行為は全てが褒められるものではなく、花は未熟な母親だったのです。


映画は田舎に移ってから伸びやかに人物達と描写していきます。花も農作業のみならず、色々な面で成長して行きます。終幕でお危険を顧みず、必死になって息子の姿を探し求める花。でも残酷なのは、あそこで描かれていたのは子を探す母の想いであって、子供にとってどうなのかは別だ、という事実。親も成長していくけれども、子供は親の気持ちとはまた別に成長し、自立し、旅立っていくものなのですから。


全体に面白く、感銘も受けた箇所も多いのですが、観終えた直後は少々の物足りなさも感じました。内容は含蓄に富み、アニメ映画としての意匠は凝らされており、映像も音楽も美しいのに関わらず。どうやら映画の終盤が、私の事前の期待と違っていたようでした。前半同様に、後半も子育ての感動が描かれているのかと思っていたら、結末で冷厳な事実を突き付けられたのです。つまり自分の予期していた期待と違う、痛い映画だったのです。しかし私はあれで良いのだと思うようになりました。


映画とは難しいものです。世に多く聞く「期待外れ」「思っていたのと違う」は、ネガティヴ、マイナスの面で言われる場合が多い。しかし映画とは予想と違い、思っていたのと違う方が驚きがある筈。ただその驚きが余りに予想のベクトルと違うと、ネガティヴな思いで受け取ってしまうものでもあるのです。映画はそのありのままで理解し、その結果受け入れるか否かではありますが、さて私のように器用でもない人間には、そう毎度のように即理解し、受け入れられるとは限りません。でもこれって、「映画」に限らないですよね。


おおかみこどもの雨と雪
The Wolf Children Ame and Yuki

  • 2012年 / 日本 / カラー / 117分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):-
  • 劇場公開日:2012.7.21.
  • 鑑賞日時:2012.8.13.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜11/デジタル上映。お盆休みの月曜20時10分からの回、125席の劇場で50人くらい。
  • 公式サイト:http://www.ookamikodomo.jp/ 作品紹介、予告編、公式ブログ、監督インタヴュー等。