アルゴ



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1979年11月。テヘランアメリカ大使館に大量の暴徒が侵入し、52人が人質となった。しかし6人の大使館員が裏口からこっそり逃れ、カナダ大使私邸に逃げ込む。彼らが見つかるのは時間の問題、見つかれば公開処刑は確実だ。国務省の依頼により、CIAは人質救出のプロ、メンデス(ベン・アフレック)を派遣。メンデスはハリウッドを巻き込んだ大胆な作戦を立案、早急に実行に移される。彼は『猿の惑星』の特殊メイクでアカデミー賞を受賞した、友人でもあるジョン・チェンバースジョン・グッドマン)に協力を呼びかけ、チェンバースは旧知のプロデューサー、レスター・シーゲル(アラン・アーキン)を計画に引き込む。着々と準備が進む中、6人の大使館員達と共に脱出すべくメンデスは現地に飛ぶが、そこには数々の障害が立ち塞がっていたのだ。


基本はスリラーの構造を持ち、そこにドラマを塗してある作り。その匙加減が絶妙です。まるで70年代の社会派娯楽映画のよう。映画を観ながら、『狼たちの午後』や『チャイナ・シンドローム』といった作品が脳裏に浮かびました。つまり、長々とした説明調のドラマが無くて簡潔なのに、ドラマがしっかりあるのです。主演だけではなく監督も兼任しているベン・アフレックの手さばきは、自信に満ち、しっかりとした足取り。慌てず急がず、しかし鈍重を避けています。そして後半は脂汗をかきそうになる緊張感。逃れる術は脳内で「これは映画だから」と繰り返すのみですが、実話を基にしているのですから逃れられません。だからこそ開放的なラストで感動したのです。これは素晴らしい映画でした。


ハリウッドも登場するので皮肉も含めた映画愛が出て来るものの、物語を邪魔しない程度なのも上手い。でも最後の最後に監督でもあるアフレックの映画愛、それも特定の超有名SF映画への愛情が炸裂していて、頬がほころんでしまいます。全体のバランスも見事なのに、ちゃんと自分の嗜好も出していました。本筋である後半のじりじりする緊張感と言ったら無いのですが、実はスケールは小さい話なのです。しかしそんな事は感じさせず、ぐいぐいと引っ張って引っ張って引っ張って、スクリーンに観客の眼を釘付けにする手腕は素晴らしい。前作『ザ・タウン』のアクション演出も素晴らしかったですが、本作のスリラー演出も素晴らしい。ベン・アフレックはきっと名監督になりますよ。


クリス・テリオの脚本は巧みで、娯楽の間に風刺や批評を滑り込ませています。そもそも何でこのような反米が起きたのか。イラン人は皆、凶暴なのか。基本的にはアメリカ側視点ではあるものの、イラン人も皆、暴徒や怒りに満ちただけの人ばかりではない、という描写がちゃんと用意されています。イランに対してよりも、むしろアメリカの政策への眼差しが厳しい映画となっています。


アラン・アーキンジョン・グッドマンの、映画業界を生き抜いてきた食えないヴェテラン・コンビも楽しいですが、意外や意外、常に困った顔をしているアフレックも良いじゃないですか。役者としての彼にはまるで期待していなかったので、これは嬉しい収穫でした。素顔の困った顔、6名相手の冷静沈着な顔。主人公は両方使い分けているので、人間味がありました。


使い分けと言えばロドリゴ・プリエトによる撮影も見逃せません。北米場面はHD撮影、外国場面は粗いフィルムと、ルックの差異が良いです。ドラマ調の北米、臨場感の外国、といった所でしょうか。ドキュメンタリタッチな映像が後半の緊張感に繋がり、これも素晴らしい技術力でした。またインビジブルVFX(特撮と分からない特撮)も多用されていて、見事な効果を上げていましたよ。ウィリアム・ゴールデンバーグの編集も冴えを見せていました。


私自身は、役者では主人公の上司役ブライアン・クランストンが1番印象に残りました。この所急に見掛けるようになった人ですが(先日観た『トータル・リコール』の悪ボスとか)、近年では本作が1番美味しい役です。終盤の熱血活躍も見逃せません。スカッとする場面も用意されていますしね。


派手な場面は無くとも、血や爆発や暴力はなくとも、知恵と度胸で危機また危機を潜り抜ける、娯楽としても上出来の映画。残念ながら日本では興業的に失敗したようですが、こういう映画こそ当たってもらいたいものです。機会がありましたらお見逃しなきよう。強力にお勧めしたい作品です。


アルゴ
Argo

  • 2012年 / アメリカ / カラー / 120分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):Rated R for language and some violent images
  • 劇場公開日:2012.10.26.
  • 鑑賞日時:2012.10.26.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜8/デジタル上映。公開初日の平日金曜夜、23時40分からの回は20人程の入り。
  • 公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/argo/ 予告編、作品情報、著名人からのコメント等。