カリフォルニア・ドールズ



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ドサ周りで各地を回るカリフォルニア・ドールスことアイリス(ヴィッキー・フレデリック)とモリーローレン・ランドン)の女子プロレスラー・コンビと、美女2人を一流にするべく世話を焼き、時にはケンカ相手になるマネージャのハリー(ピーター・フォーク)の3人組。徐々に人気も実力も付いてきたレスラー・コンビだったが、やがてリノで開催される決勝戦に出場する事になる。対戦相手は1勝1敗のトレド・タイガース。しかし試合は、ドールスが不利になるように仕組まれていたのだった。


名匠ロバート・アルドリッチの遺作(1981年作)にして愛すべき佳作として知られる『カリフォルニア・ドールズ』(1981年の初公開時は『カリフォルニア・ドールス』)。男尊女卑の代表みたいに言われていた監督が、最後にこんな作品を残したのも面白いものです。単なるスポ根映画に見えても、その実は、侘しさ、寂しさ、痛さ、ひもじさ、悲しさ、そしてお得意の怒りが描かれているのもらしいし、心に残ります。前向きなスポーツ映画としての側面と、人間の負の側面が同居しているのです。そもそもハリー自身、まるで好ましくない男です。ケチで短気、独善的で横暴でもあるのですから。観ていてイライラしますが、でもどこか愛嬌があって許せてしまいます。演ずる故ピーター・フォークを大画面で観るのは、『プリンセス・ブライド・ストーリー』以来でしょうか。刑事コロンボとは全く違う「食えない」演技で、さすが名優です。その役が軽妙かつ生々しいのは、監督の体質なのでしょう。


原題名の「...All the Marbles」には「一等賞」「全部」という意味の他に、「一発勝負を賭ける」「死力を尽くす」といった意味があるのだそうです。


ドールスの1人、ヴィッキー・フレデリックは、リチャード・アッテンボローの映画『コーラス・ライン』にも出ていたのですか。全く記憶にありませんでした。何でもボブ・フォッシーお気に入りのダンサーだったとか。本作が彼女の映画での代表作のようです。シリアスでしっかり者のアイリス役の彼女は、ルックスだけでなく印象に残る好演でした。対照的に若く、どこか脆さを感じさせるモリーローレン・ランドンも良かったです。もう少し彼女のドラマが描けていれば…とは無いものねだりでしょうか。実際、初期段階の脚本では、幼いときに実父にレイプされた薬漬けのレズビアン、という設定だったそうですが、映画ではそこら辺は殆どカットされています。薬物中毒らしいほのめかしはあるものの、モリーは自ら薬を断って決戦に臨むのです。


感心する…というか凄いのは、この美女2人が吹き替えなしでプロレスに挑戦している事。顔もばっちり映っているので迫力があります。無論、危険な技の場面はスタントウーマンを使っているところもあるのでしょうが、殆ど本人たちがやっていると思しき映像ばかり。私は格闘技に殆ど興味が無い人間なのですが、これは一見の価値があると思いました。


憎たらしい小悪党プロモーター役バート・ヤングと、憎たらしくも情けない悪徳レフェリー役リチャード・ジャッケルも良かった。だから終盤でドールスがやり返すところは盛り上がる、盛り上がる。劇場でも拍手が幾度と出ました。制限時間を使っての緊張感と高揚感は、アルドリッチの代表作の1つにして傑作であるアメフト・コメディ『ロンゲスト・ヤード』のクライマクスを想起させます。また、試合後のアイリスと敵役トレド・タイガースとの握手場面は、同じく『ロンゲスト・ヤード』のラストにおけるエド・ローターバート・レイノルズの関係に通じる匂いがありました。ここら辺はアルドリッチの個性なのでしょう。


私が以前、この映画を観たのは故・淀川長治解説の『日曜洋画劇場』で、どうやら1985年前後だったようです。とても面白く観て、クライマクスが大いに盛り上がった記憶がありました。でもこんなロードムービーだったのですね。町から町へのドサ周り、しかも移動中の会話は、ポンコツ車が道路を行く様をロングショットで映してそこに台詞を被せていたりで、撮り方も面白かったです。1980年代初頭のアメリカの雰囲気があってとても良い。


女優達が胸を出すのも時代を感じました。今のハリウッド映画ではこうはいかないでしょう。ヴィッキー・フレデリックがとある忌まわしい経験の後にシャワーを浴びる場面は、裸だから痛々しさが出ていたと思います。アメリカン・ドリームものでも、そこに至るまでは過酷だ、という映画でもあるのです。そして最後は栄冠を勝ち取っても、それは長続きはしないだろう、と厳しい現実を見せつつも、夢や希望も感じさせる映画。普遍的テーマを真面目に生々しい現実を滑り込ませて語りつつ、娯楽として撮り上げた映画。だから、未だに古びません。苦境の中でも感情をぶつけ合い、少しでも勝利を掴もうとする人間を描いている…これって、ロバート・アルドリッチの個性そのものではないですか。


使用楽曲の権利関係でヴィデオグラムが出ない映画だそうです。機会があったら是非お見逃しなきよう!


カリフォルニア・ドールズ
...All the Marbles

  • 1981年 / アメリカ / カラー / 113分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):-
  • MPAA(USA):Rated R
  • 劇場公開日:2012.11.3.
  • 鑑賞日時:2012.12.2.
  • 劇場:シアターN渋谷1/35mmフィルム/モノーラル上映。劇場閉館の為の最終日、日曜11時からの回、75席の劇場は9割程の入り。『ホテル・ルワンダ』、『ホステル』、『ヒルズ・ハブ・アイズ』…といった、拡大公開が望めないからという理由で日本劇場未公開になりそうな映画を、数々拾って来た貴重な映画館。シアターN渋谷よ、7年間ありがとう。その精神が他の劇場に受け継がれますように。
  • 公式サイト:http://www.californiadolls2012.com/ 予告編、作品紹介、劇場情報等、簡素で必要最低限の情報を載せたサイト。公開規模からして止む無し。