ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

アメリカの極秘諜報機関IMF(インポッシブル・ミッション・フォース)の任務中に、IMFエージェントが殺し屋サビーヌ(レア・セドゥー)によって殺害され、ロシアの核ミサイル発射用暗号コードが盗まれた。IMFのリーダー、イーサン・ハント(トム・クルーズ)率いるティームは、事件の背後にいると思しき謎の人物”コバルト”の正体を洗い出すよう、密命を受ける。ベンジーサイモン・ペッグ=『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』『宇宙人ポール』に続いて、お正月映画3本目!)、ジェーン(ポーラ・パットン)らを率いて、コバルトが潜伏しているというクレムリンに潜入するイーサンだったが、大規模な爆破事件が発生。イーサンらにテロ容疑が掛けられてしまう。米ロが一触即発となった状況下、IMFは解体され、イーサンは長官(トム・ウィルキンソン)から事件の黒幕を追うように示唆される。メンバーには分析官ブラント(ジェレミー・レナー)も加わり、サビーヌが現れるという情報があったドバイの超高層ビルブルジュ・ハリファ”に向かうのだが。


ネット上では後半の評価が賛否…というか芳しくなかったので少々心配しましたが、期待以上にかなり楽しめました。後半に登場するムンバイの大邸宅でのくだりはいささかダレたものの、それ以降の展開で盛り返し、手に汗握って楽しめたのです。また批判の的として、敵が小規模なのを挙げていた評も複数で見ました。これは確かにそうなのですが、IMFの活躍場面をチームでの分業制に設定してしまうと、敵を大勢にしても余り意味が無いからなのではと思い、僕は納得しました。同じ映画、同じ場面でも、人によって評価や感想が違うのは興味深いものです。但し悪役に関しては、もう少し面白くしようがあったのでは、とは思いましたが。というのは、この悪役たちは人類を滅ぼしてしまおう、という少数精鋭の連中です。リーダー自らが死地に赴くのも厭わない。つまりイーサン・ハント率いるIMFと同じような連中とは、表裏一体の関係なのですね。『ダーティハリー』(1971)のハリー・キャラハンと、悪役「さそり」のような関係、と言えば分かりやすいでしょうか。ここら辺をもう少し深堀りしても良さそうなものの、クリント・イーストウッドの映画と違って、かなりあっさりしたものになっています。娯楽映画としての判断としては正しいのでしょうが、惜しい気がしました。その敵役を演じていたミカエル・ニクヴィストは、『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(2009)等の『ミレニアム3部作』のミカエル・ブルムクィスト役(そう、ハリウッド版『ドラゴン・タトゥーの女』でダニエル・クレイグが演じている役です)。かなりの老けメイクでちょっと驚きました。イーサンと表裏一体の筈だとすると、後半の意外なまでの悪党の頑張りも納得いくし、もっと若々しくて精悍な悪役で良かった。残念ながらニクヴィストはミスキャストだったと思います。


監督はアニメーター出身のブラッド・バードスティーヴン・スピルバーグが製作総指揮を務めていたTVシリーズ『世にも不思議なアメージング・ストーリー』での監督経験はあるものの、長編実写作品は初めてです。バードと言えば、『アイアン・ジャイアント』(1999)、『Mr.インクレディブル』(2004)、『レミーのおいしいレストラン』(2007)と、傑作アニメ作品を連発して来た優れた監督です。起用の理由を推察するに、立体的なアクション描写の巧さと、きっちりしたストーリーテリングが出来る監督だからではないでしょうか。実際、バードは起用に応えています。TVサイズに収まるせせこましさが鬱陶しい凡作だった前作『M:i:III』(2006)との大きな違いは、何と言っても空間の上下や奥行きを生かしたアクション描写です。いきなりの屋上でのあっと言わせるアクションに始まり、中盤の高層ビルから砂嵐の中での追撃、終幕の立体駐車場のくだりなど、映画的興奮に満ちていました。ユーモラスでありながら歯切れの良い台詞の応酬(「Blue is glue.」「And Red?」「Dead.」)も気持ち良いし、アクション映画はこうでなくては。アクション映画の呼吸が分かっている監督の手に掛かると、こうも面白いものなのでしょうか。


また、アクションだけではなく、明確な各登場人物像もあって、本作は内容もりだくさんの娯楽映画に仕上がっています。思えば『ダイ・ハード』(1988)も似たような特徴を兼ね備えていました。あの映画に似た香りが本作にもあるのです。本シリーズ過去の作品では、「完璧アクション王子」だったイーサン・ハントが、たまに間が抜けている男とも描写され、懸命なクルーズらしさが時にギャグに転じていました。これにはキャメロン・クロウの傑作『ザ・エージェント』(1996)を思い出させました。


本作で強調されている「完璧とは程遠い」のは、主人公だけではありません。ハイテク道具もそう。時にトラブルの元となり、こちらをハラハラさせられます。この映画は、主人公、ハイテク道具、変装、「アクション・シリーズものの主人公は孤独であるという定番」等、おなじみの道具立てと使いながら、次々と観客の予想や固定概念をひっくり返して行きます。その全てが生かされているとは言えませんが、中々趣向を凝らした面白い脚本です。僕は往年のTVシリーズスパイ大作戦』(もちろん、旧シリーズの方)の大ファンでした。この映画版シリーズはそこそこ楽しませてくれたものの、どれも「これは『スパイ大作戦』ではない」との違和感が常につきまとっていました。これではトム・クルーズの『独り大作戦』ではないか、と。それが本作では、文字通りチームワーク重視の『スパイ大作戦』に変化していて、TVシリーズのファンとして喜ばしいものでした。それでいながら、トム・クルーズのスター映画として成立していて、満足度の高い映画鑑賞でした。


冒頭、ラロ・シフリンのテーマ曲をバックに、導火線を使った派手なタイトルが始まります。タイトル・デザイナー3人の内1人はカイル・クーパーでした(シリーズ第1作も彼の作品です)。その導火線の使い方も劇中からスムーズな移行でカッコ良く仕上がっていました。でも冒頭のタイトル曲は、シリーズでは1作目のアレンジが1番好きですね(因みに最悪だったのは『II』のハンス・ジマー版)。本編の音楽、マイケル・ジアッキーノの曲は、シフリンの曲以外に印象に残らなくて残念でした。


是非、劇場の大画面、大音響での鑑賞を…それも可能ならばIMAX版での鑑賞をお勧めします。ドバイのくだりなど、手に汗握りますよ。


ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル
Mission: Impossible - Ghost Protocol