Disney’sクリスマス・キャロル



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

19世紀半ばのロンドン。金貸し業を営む老人スクルージ(声:ジム・キャリー)は街の嫌われ者だった。街が祝福に包まれるクリスマス・イヴであっても、冷酷非情で他人の不幸など何とも思わず、貧乏人など死んで結構と言い、部下のクラチット(声:ゲイリー・オールドマン)を安くこき使い、陽気な甥のフレッド(声:コリン・ファース)の晩餐会の誘いを無下に断る。その夜、スクルージが帰宅すると、かつての共同経営者で7年前に死んだマーレイ(声:ゲイリー・オールドマン)の亡霊が現れる。マーレイは自分の生き様を後悔しており、スクルージに警告。これから3人の霊がお前のところに訪れる、と言い残して去って行く。やがて1人目の霊(声:ジム・キャリー)が現れ、スクルージを過去の世界に連れて行く。そこで彼が目にしたものは。


2Dの英語版か、3Dの日本語吹替え版のどちらを観るのか少々迷いましたが、吹替えの完成度が期待出来るディズニーということと、3D映画を観たいという欲求もあったので、3D/日本語吹替え版を選択しました。


ロバート・ゼメキスは前作『ベオウルフ/呪われし勇者』(2007)、前々作『ポーラー・エクスプレス』(2004)と、このところ3D-CG映画しか監督していません。しかしこの人独自の映像へのこだわりは、余り面白くは無かったけれども『永遠に美しく…』(1992)や、佳作『コンタクト』(1997)序盤の浴室の鏡の場面など、あちこちに萌芽はありました。現実離れした映像やキャメラワークを存分にやりたい、という欲求が次第に膨れて来てのこのところのCG映画製作なのではないでしょうか。


映画はチャールズ・ディケンズの有名な中編小説『クリスマス・キャロル』の映画化です。有名な物語だけあって驚く展開はありませんでしたが、100分弱の間は結構楽しめました。プロットは良く知られているように、冷酷且つ無慈悲な金貸し業を商う老人スクルージが、クリスマス・イヴの晩に3人の精霊によって、過去・現在・未来を見せられ、改心して善人になるというもの。何とも道徳臭い物語ではないですか。正直に言って、何でこんな古臭い話を現代に映像化するのか、と訝しく思いながらの鑑賞でした。


しかし映画を観ながら自分の認識を変えました。世界的不況の最中に何ともタイムリーな映画化だと言う以前に、これが普遍的な内容を扱っているから、現代でも鑑賞に堪え得るのだと気付いたのです。


スクルージは最初からケチで頑迷、冷酷な金貸しではなく、純粋で優しいところもある子供・少年・青年でした。しかし時代と場所は産業革命の影響が大きいイギリス。貧富の差が激しくなり、貧しさに陥らないよう、金を稼ぐことこそが幸せな人生なのだ、脱落して貧しい者は怠け者だという価値観に、彼は毒されてしまいます。やがて婚約者とも別れ、益々孤独で心を閉ざした人間となってしまったのですが、精霊の導きにより自らに埋没していた善性を取り戻します。この物語がハッピーに感じられるのは、何よりもこの「取り戻す」という点にあるのではないでしょうか。


フルCGは精緻そのもの。3D上映が前提の構図により、立体感と奥行き感がかなり強調されていました。これは劇場でしか体感出来ない効果です。山寺幸一らの吹替えも上出来。でも7役を演じるジム・キャリーや、ゲイリー・オールドマンコリン・ファースロビン・ライト・ペンボブ・ホスキンスらの声も聞きたかった。


しかしこれが後に残る傑作かと言うと、何かが足りない気がします。それは新鮮さや物語の驚きだったのか、と鑑賞直後には思いましたが、違いました。アニメーション映画としての意義を余り感じられなかったのです。俳優の演技をスキャンし、映像を加工し、再創造する手法は、高度な技術力が求められます。しかし実写同様のリアリスティックな扱いの範疇にある限り、アニメーション映画としての飛躍に乏しくなります。誇張や省略といった表現が命のアニメーション映画として、自ら存在の意義を見失わせるものになっているのではないでしょうか。これは以前観た『ファイナルファンタジー』(2001)と同様です。その意味で、リアリズム路線のフルCG映画の行き詰まりを感じてしまいました。


ゼメキス組アラン・シルヴェストリの音楽は良かったし、ラストに流れるアンドレア・ボチェッリの主題歌もハッピーだった事も言い添えておきましょう。


Disney’sクリスマス・キャロル
A Christmas Carol

  • 2009年 / アメリカ / カラー / 96分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):Rated PG for scary sequences and images.
  • 劇場公開日:2009.11.14.
  • 鑑賞日時:2009.11.15.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜12/ドルビーデジタルでの上映。公開2日目のシネコン最大の242席の劇場、11時45分からの回は4割程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.disney.co.jp/movies/christmas-carol/ 予告編、映画情報、キャラクター紹介、ギャラリー、ゲーム、壁紙ダウンロードなど盛りだくさん。