オールド・ボーイ


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

妻子のいる平凡なサラリーマンのオ・デス(チェ・ミンスク)は、ある日何者かに誘拐・監禁されてしまう。15年後にいきなり解放されたオは、知り合った若い女性ミド(カン・ヘジョン)の助けを借り、監禁した相手に復讐すべく、その正体と目的を突き止めようとする。


今年のカンヌ映画祭で大騒ぎだった韓国映画は、和製コミックを原作(土屋ガロンの作、嶺岸信明の画)としたガツンと来る仕上がりで、好き嫌いはともかく観客に衝撃をもたらす作品には違いない。デジタル時計調の何気に凝ったタイトル・デザインからして作り手たち力の入れようが分かるし、何より画面の奥から今までに無かった映画にしようとする野心が伝わって来る。画面上で繰り広げられるのは、絶叫・怒号・号泣、暴力・性・死、復讐・贖罪・催眠術・過去の記憶と、よくもまぁ2時間という上映時間にこれだけ詰め込んだものよ、と感心せざるを得ない荒唐無稽な怒涛の展開。終盤に至っては、そうであって欲しくないという予想に沿ったイヤな感じが強烈だ。観客はラストに訪れる寛容で、ようやくほっと一息つけるという有様。ふぅ、大変な代物を見てしまった。


こんな感じの映画なのだが、ごちゃごちゃせずに狂った太いうねりをひたすら前へ前へと繰り出すパワーには圧倒させられる。パク・チャヌクの演出は大袈裟でくどく、こってりとした体質が胃もたれを起こしそう。それでも単調にならないのは、脚本や技術面でも非常に丁寧に作られているから。カットバックや回想場面の挿入など、技巧も凝っていて、例えば長い廊下でのオ・デスと10人以上のゴロツキとの乱闘場面では、セットを真横から捉えてスコープの横長画面を生かし、横移動で延々1ショットに収めている。様々な点で観るべき点の多い映画である。


暴力描写が溢れている映画にあって、その暴力が肉体的な痛みを伴うだけでなく、精神的な痛みと呼応させようとする点は注目して良いだろう。陰謀の仕掛け人の目的は、オ・デスに肉体的なものだけではなく、精神的な痛みを与えることだったのだから。その根源にあるのが重い情念で、これがいささかねっとりとしているのがお国柄だろうか。その割には暴力描写に凄みが足らず、内容のレベルに比べて軽く感じられるのは大いなる弱点である。先の廊下横移動場面も、暴力の痛みよりもクールなスタイル重視となっている。この軽さがカンヌで審査委員長だったタランティーノ好みだったのだろう。


映画としてはある真相について途中で見当が付いてしまうのも弱い。オ・デスの前で謎が明らかになっても驚きは少なく、せめて観客の予想の先にまで連れて行ってもらいたかった。画面上では阿鼻叫喚といった風情なのに、それが空々しく感じられてしまう。ラストの浄化でいささか癒されはしたが。


チェ・ミンスクはボサボサヘアーに黒ずくめの衣装といういでたちで、執念の中年男を力演していて、演出と共に映画の原動力となっている。常に爆発しそうな感情を内包している感じがとても良く出ているのだ。キュートなカン・ヘジョンも熱演で、この2人は相性も良い。一方で事件の張本人役ユ・ジテは演技は申し分無いものの、若過ぎて違和感がある。過去に囚われて若いままであるという演出の意図があるようだが、それが映画からは伝わってこない。作り手の自己満足に陥っているのではないか。


暴力的な映画なのに、これが知らず知らずに他人を傷付けることへの警鐘という、非常に道徳的でもあるのが面白い。最後まで飽きさせないのも良い。興味深いし注目すべき力作ではあるが、世間で言われている傑作との評判には疑問を投げかけざるを得ない。


オールド・ボーイ
Oldboy

  • 2003年/韓国/カラー/120分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong violence including scenes of torture, sexuality and pervasive language.
  • 劇場公開日:2004.11.6.
  • 鑑賞日:2004.11.22./ワーナーマイカルシネマズつきみ野2 ドルビーデジタルでの上映。飛び石連休谷間の平日月曜15時50分からの回、161席の劇場は20人程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.oldboy-movie.jp/ チェ・ミンスクカン・ヘジョンの来日記者会見採録カンヌ映画祭での主役3人へのインタヴュー、監禁された15年間に起こった世界の出来事年表、原作者2人のコメント、掲示板など。