ソウ


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

目覚めると、老朽化した広いバスルームにて見知らぬ者同士の男2人(ケリー・エルウェス、リー・ワネル)が鎖に繋がれていた。互いに手の届かない2人の間には自殺死体が1つ。一体、自分たちの身に何が起こったのか。そこへ謎の人物からのメッセージが。朝6時までに相手を殺すか、自分が死ぬかを選択しなくてはならない。これは何者かが仕掛けた死のゲームなのだ。


超低予算の自主製作映画かと思いきや、知っている役者が何人も出ている低予算映画。殆どバスルームで展開する密室劇かと思いきや、時空を前後させて何人もの人物が交錯する展開。そういう意味では予想を裏切られた「普通の」低予算映画だった訳だが、これがかなり個性的で面白い仕上がりになっている。オーストラリア人の2人の若者、ジェームズ・ワンリー・ワネルが脚本を書き、ワンが監督、ワネルが主演した低予算ホラー/スリラーは、エグいまでに観客の神経をギリギリと締め上げる残酷趣味場面の連続に、先の予想が付かない十分に捻りの効いたプロットで、ぐいぐいと観客の興味を引っ張る。


映画は進行するに連れ、先の男2人の物語から拡散していき、刑事たち(ダニー・グローヴァー、ケン・レオン)や、男2人の過去へと行き来する。謎の犯人「ジグソー」は、残忍な仕掛けを用いて今まで何人も死に至らしめていたのだ。刑事たちの捜査場面は緊張感がありますし、鎖に繋がれた男達の過去が徐々に浮かび上がり、交錯していく様はスリリング。触るとこちらの手が切れそうなピアノ線のように、全編に渡ってトリックと伏線がぴんと張り巡らされていて、全く飽きさせない。特に終盤はこれでもかと畳み掛ける展開で、最後の最後に大仕掛けを披露するという、徹底したサーヴィス精神には恐れ入る。


演出と脚本は野蛮なまでに力強く、その点では全く釣り合いが取れていた。初期のサム・ライミ作品(例えば『死霊のはらわた』(1981)とか、『ダークマン』(1990)とか)を思わせる強引なキャメラワークにハイスピード映像と、極端な映像表現が異様な迫力を盛り上げる。北米及び日本劇場公開版では残酷場面が削除されたということで、直接的な描写は殆ど無いが、心臓の弱い観客にはお勧め出来かねる。カミソリだらけのピアノ線をくまなく配した空間。顎と頭部に取り付け、時間が来ると上下に開く逆虎バサミヘッドギア。椅子に縛り付けられた犠牲者の両側から頭部めがけて迫る電動ドリル。鎖に繋がれた足を切断しろとばかりに出てくるノコギリ。と、こちらの神経を逆撫でするような素敵な小道具、装置、設定、手法が盛りだくさん。チャーリー・クラウサー(ナイン・インチ・ネイルズ)によるインダストリアル・ノイズのような音楽も逆撫で要素の1つで、これは初期のデヴィッド・リンチを思わせる。このように観客を精神的にいたぶろうとする徹底した姿勢からして、ワンとワネルは本当にホラー映画が好きなようだ。


脚本と演出の豪腕による息次ぐ間もないジェットコースターと化した映画は、合点がいかなかったり、後から思うと首を傾げたくなるような箇所がごまんとあるものの、上映時間中は強引に捻じ伏せられてしまう。強烈な印象を残すホラー映画を送り出した20代半ばのフィルムメイカー・コンビの誕生に、ここは声援を送りたいものだ。




「ソウ」
Saw

  • 2004年/アメリカ/カラー/103分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):R-15指定
  • MPAA(USA):Rated R for strong grisly violence and language. (edited for re-rating; originally NC-17)
  • 劇場公開日:2004.10.30.
  • 鑑賞日:2004.11.13./VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ2 ドルビーデジタルでの上映。公開初日の土曜21時30分からの回、369席の劇場は6割の入り。
  • 公式サイト:http://sawmovie.jp/ 予告編、パンフレット同様に2方からの視点によって語られるストーリー紹介、ワン&ワネルへのインタヴュー、プロダクション・ノート、壁紙、BBS(ネタバレOKのツリーもあり)、ネタバレFLASHビシバシのスペシャル・サイトなど、配給会社の力の入れようが分かるサイト。