アバウト・シュミット


★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

会社人間だったらしいシュミット氏は、定年退職して自分の居場所を無くしたように思っている。彼は貧困下にいる子供に寄付と手紙を送るボランティアを始めるが、子供への手紙で後輩と妻に対する不平不満をぶちまける始末。しかし一人娘の結婚に、いきなりの妻の急死、と大事件が連発。シュミット氏は娘の結婚をやめさせるべく、キャンピング・カーに乗って出発するが・・・。


リース・ウィザースプーン主演の『ハイスクール白書/優等生ギャルに気を付けろ!』(1999)を観たことがあるか? ダサい邦題で損しているこの映画、生徒会長選挙に立候補した自己顕示欲と上昇志向が強い優等生を何とか落選させよう、と孤軍奮闘する高校教師を描いた佳作コメディなのだ。それに続いて脚本(ジム・テイラーとの共同)・監督を手掛けたアレクサンダー・ペインの『アバウト・シュミット』も、テーマ的には似ているように見える。


両作品に一見して共通するのは、笑いに散りばめられた苦みと虚無感だ。ひと騒動終わって教師とシュミット氏が見つけたのは、いくら自分があがいても世界はおろか他人の人生にも影響を与えられないという絶望感。明るく賑やかな前作のラストではそこで終わりにしていたが、淡々とした地味な今作ではその先に心の救済をぽっと出して終わらせる。表向き作品の装いは違うものの、味わいはかなり似通っているのだ。


アレクサンダー・ペインは役者の演技を丹念に拾い上げ、画面の構図やディテールに気を配り、笑いを散りばめ、速過ぎず遅過ぎずのペースで物語を進めていく。子供への手紙を使ったナレーション、という手法も上手いし、若手とは思えぬ全体に落ち着いた手腕は注目に値する。一方で悪意が露骨なギャグ(例えば娘婿家族の描写など)も随所に放り込み、前述した虚無感も含め、これが監督・脚本家の個性のようだ。


さて、シュミット氏ことジャック・ニコルソンだ。枯れたニコルソンなんて想像出来ないって? いやいや、僕も観るまでは信じられなかったが、これが本当にそうなのだ。内面に怒りを抱え込み、平気でウソを付き、実は小心者で、だらしなく、無駄に年月を重ねた、何かにすがらなくては生きていけない男。そんな初老ダメ男を他人事でなく身近に感じさせる、ある意味観客の分身として演じていて、薄口なようでいて中身の濃い、年輪を感じさせる演技で見せてくれる。ニコルソンが出ていなかったら随分と映画の雰囲気も違っていただろうし、面白さもかなり減っていたのではないだろうか。


娘婿の母親役キャシー・ベイツもアクの強い演技で笑わせ、壮年・中年男女優のパワーと可笑しさで引っ張るこの作品。淡々としたタッチの演出と老成した演技が組み合わさった数々の瞬間を観られる楽しみに満ちた映画だ。尚、娘婿役のダーモット・マローニーがそれまでの好青年イメージを払拭する役柄で、あっと驚くハゲメイクで視覚的にもインパクトがあったことを付け加えておこう。


アバウト・シュミット
About Schmidt

  • 2002年/アメリカ/カラー/125分/画面比1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated R for some language and brief nudity.
  • 劇場公開日:2003.6.15.
  • 鑑賞日:2003.5.24./川崎チネチッタ チネBE/ドルビーデジタルでの上映。日曜13時30分からの回、177席の劇場は約半分の入り。
  • パンフレットは600円。小堺一機の談話、アレクサンダー・ペインへのインタヴュー、シュミット氏のウドゥグ少年への手紙など。
  • 公式サイト:http://www.about-s.jp/ 「あなたの中のシュミットさん度チェック」のゲーム(僕は40%、”それなりにシュミットさん”だそうな)、ジャック・ニコルソンアレクサンダー・ペインキャシー・ベイツへのインタヴューなど。パンフレットと同じ内容のものもあるが、3者へのインタヴューなどパンフレットと差別化を図っているのは嬉しい。