羊たちの沈黙
★film rating: A+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。
トマス・ハリスの傑作小説を映画化した、ご存知大ヒット作。この映画でサイコ・スリラーというジャンルを一般に知らしめた。
連続女性誘拐殺人犯バッファロー・ビル(テッド・レヴァイン)と、彼を追うFBI訓練生クラリス(ジョディ・フォスター)、という構図はよくあるもの。そこへクラリスに助言を与える収監中の連続殺人鬼ハンニバル・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)という、狂える天才を絡ませたのが成功の要因だ。クラリスとレクターの造形が素晴らしく、2人の会話=対峙シーンは目が離せない。それでも原作を簡素化しただけのようなテッド・タリーの脚本がアカデミー賞というのは、ちょっと納得いかない。ラストの改変などは上手いけど、全体には原作を簡略化した感が強く、これがその年ナンバー1かというと疑問だ。
クラリス役ジョディ・フォスターは、全く本当に素晴らしいとしか言いようの無い演技。それに比べてレクター役が生涯の当り役となったアンソニー・ホプキンスは分かり易く、ぎりぎり嫌味にならないオーヴァー・アクトで通している。出番が少ないにも関わらず彼の圧倒的存在感は強烈だが、狂える悪魔的な天才は得な役回りでもある。
しかし、やはりこれはジョディあっての映画だ。大袈裟にならずに飽くまでも自然でリアルな演技で通し、ホプキンスに対して一歩も後を引かず、クラリスこそが主役であると印象付けているのは、超絶的としか言いようがない。映画史に残る名演である。
扇情的になろうと思えばいくらでもどぎつく映画化出来る題材だが、ジョナサン・デミの演出は冷静さを持ち合わせつつ、原作の持つ冷徹さにまではなっていない。クラリスや被害者たちへの細やかな視線が底辺に流れ、そらがこの作品を出色のものとしているのだ。演出を支えているのが、デミとの名コンビ、タク・フジモトの撮影。堅実なフレーミング、必要なもの以外捉えない映像が、複雑なプロットを持ちながら作品の与える印象を簡潔なものとしている。映像美を全く排していて、リドリー・スコットの続編『ハンニバル』(2001)と対照的なのも面白い。
羊たちの沈黙
The Silence of the Lambs