ガタカ



★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


未来世界を舞台にした一種の寓話、それがSF映画ガタカ』だ。


近未来では、遺伝子工学により生まれた優秀な人間を「適正者」、普通に妊娠・出産した人間「不適正者」と呼び、適正者のみがエリートになれる社会となっていた。そんな世界で生まれ育ったヴィンセント(イーサン・ホーク)は、幼い頃から宇宙飛行士を夢見ていた。だが彼は近視・病弱で寿命も30年と宣告されている不適正者、まずパイロットになれる見込みは無い。適正者の弟に頭脳・体力でも負けているのだ。


そんな彼に転機が訪れる。


ブローカーと取り引きし、適正者だが事故で半身不随となったジェロームジュード・ロウ)に成りすまし、宇宙センター・ガタカに入社出来たのだ。ロケット搭乗も決まり、ジェロームとも奇妙な友情が出来上がり、同僚の適性者アイリーン(ユマ・サーマン)との間にも恋が芽生える。 順風満帆なヴィンセント=ジェロームだったが、ロケット発射の日も近づく中、ガタカで殺人事件が起こる。警察により、ガタカ内に不適正者ヴィンセントの存在が明らかになり、捜査の手が迫る…。


遺伝子操作による社会というアイディアは別に珍しくはないのだが、そこに色々と捻りを加えているのが、これが長編デビューとなる脚本&監督のアンドリュー・ニコルの御手柄だろう。特にヴィンセントとジェロームの不思議な関係に注目した辺り、中々目が鋭い。2人は互いに依存しなければならない関係で、ヴィンセントのジェロームへの偽装を丹念な描写で表している。シナリオには、よくよく考えると色々理屈が合わない部分もあるのだけれど、見ている間は気にならない。別に難しいことを考えなくとも、単純にスリラー仕掛けのSFとして楽しめる仕上がり。 こういうエンタテインメント指向の製作態度は、個人的に好きだ。


イーサン・ホークは監督のイメージ通りだったのではないか。2枚目ではあるもののいかにも普通っぽく、いわば映画の観客である僕たちの代弁者でもある役どころなのだから。青二才演技が鼻に付く瞬間もあって気にはなるが、等身大のヒーローとしては似合っていた。


そんなホークをすっかり食ってるのが、殆ど車椅子で登場したジュード・ロウ。実年齢はホークより3つ下だというのに全くそうは見えず、むしろ年長者のよう。パワフルな演技で主役を圧倒する。ブロンド、おめめぱっちり、デカダンな雰囲気、とルックス抜群なのに、演技が割と男っぽく、まるで少女マンガのキャラみたいだった。この映画の魅力の1つである。


ユマ・サーマンは、適正者であるにも関わらず身体的欠陥により寿命が限られていると宣告されているアイリーンを的確に演じている。自分の死を受け入れている女性を、節度を持って表現していた。また、脇役にお久し振りのアーネスト・ボーグナインが顔を出していて、元気な姿を見られたのが嬉しい。


ヴィンセントには適性者の弟がいて、この弟との関係も優れた男と男のドラマとして見応えがある。一方、ヴィンセントとジェロームの関係や、ガタカのディレクター役にゲイの作家ゴア・ヴィダルを配し、さらに見事に鍛えられたイーサン・ホークらの裸体など、ホモセクシュアルな映画にも読めてしまう。


ストーリーだけではなく、スタイリッシュなヴィジュアル・デザインも素晴らしい。ガタカの社員は全てレトロなダーク・スーツ、自動車もエンジン音は未来的でも外見は40〜50年代風、内装はシンプルでモダンだ。キャメラもフィルターを多用して風景をはっきり特徴付けていて、マイケル・ナイマンによるオーケストラ音楽が寒々しい未来を印象付ける。


ガタカ
Gattaca

  • 1997年/アメリカ/カラー/106分/画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for brief violent images, language, and some sexuality.
  • 劇場公開日:1998.5.2.
  • 鑑賞日:1998.5.17./恵比寿ガーデン・シネマ1/ドルビーSR
  • 土曜昼の回、232席の小劇場はほぼ満席。