トータル・リコール



★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

21世紀末の世界大戦により世界は荒廃し、生き残った人類の富裕層はイギリスを中心としたブリテン連邦(UFB)に、貧困層はオーストラリアのコロニーに住んでいた。コロニー労働者は地核を貫く巨大エレベータ「フォール」でUFBに移動し、そこで肉体労働を行うのだ。コロニー制圧用ロボット組み立て工場勤務の肉体労働者のダグ(コリン・ファレル)は、毎夜のように悪夢にうなされる。夢の中でダグは、謎の女と共に兵士達に追われるのだ。しかも自分は何か重要な任務をしているらしい。愛する妻(ケイト・ベッキンセイル)が居るものの、仕事ばかりの日常に満たされないダグは、偽の記憶を埋め込んで現実逃避を楽しめるリコール社に向かう。記憶書き換えの機械に接続された途端、警官隊の襲撃を受けるたダグは、瞬時に返り討ちにして全員倒してしまった。命からがら帰宅すると、今度は妻が襲いかかって来る。さらには危機一髪のときに謎の女メリーナ(ジェシカ・ビール)が助けてくれる。彼女は夢に登場していた女だ。一体何が起きているのか?


ポール・ヴァーホーヴェン監督、アーノルド・シュワルツェネッガー主演の1990年の同名名作SFの再映画化です。監督は『アンダーワールド』シリーズ、『ダイ・ハード4.0』のレン・ワイズマン。ワイズマンはオリジナル版の大ファンなのでしょう。至る所にオマージュが散見されて楽しい。プロットは殆どオリジナル版準拠ですが、さすがに映像は現代の映画で、これは壮観でした。オリジナル版でも登場するSFガジェットの数々を眺めるのが楽しかったですが、本作も同様の楽しみがあります。大きいのから小さいのまで大挙登場。SF好きには眼福、眼福なのです。あの地球を貫く巨大エレベーターだけでも許してしまいましょう。これならば、アーサー・C・クラークが書いたSF小説の数々、巨大建築物系も映画化可能です。ロボット兵士達も実物と見まごうばかりにリアル。意外な携帯電話も楽しい(痛そうだけど)。『ブレードランナー』そっくりな都市は、あちらと違って日本語は少なく、中国語とハングルだらけ。これは当時との経済状況の差異を表していて、日本の経済の下落を実感しますね。


このリメイク版の特徴としては、オリジナル版で独特だったヴァーホーヴェン独特の内臓感覚が受け継がれなかったのと、結末の印象がかなり違うものになっていた点が挙げられます。前者はオリジナル版準拠の超暴力描写満載だと年齢制限が発生して費用の回収が難しくなるので、その回避の為でしょう。但し、中盤の夢か現実かの説得場面が、オリジナル版とリメイク版どちらも個人的には劇中のベストなのは共通です。様式アクションばかりのレン・ワイズマンだから…と、現実の不確かさ等は期待していなかったので、これは嬉しい収穫でした。


筋骨隆々のシュワと違って、中肉中背で真面目に演技が出来るファレルが主役だから、映画の雰囲気はかなり違いました。台詞が安心して聞けるのは在り難い。でもやはり、台詞は少なくとも強烈だったのが鬼嫁ケイトです。これは近年の彼女のベストパフォーマンスじゃないでしょうか。字幕も「鬼嫁」となっていて笑いましたとも。彼女の役柄はオリジナル版のシャロン・ストーンマイケル・アイアンサイドをまとめて1人にしたもの。主人公を執念で追い詰める暗殺者役として上手い事アレンジされていました。いやぁ最高です。


全体にオマージュというかリスペクトというか、そういうのにも溢れていた映画だったので、オリジナル版が好きだった私はにやにやしっぱなし。アナログVFX映像最高峰のあちらと、デジタル全開のこちら。映像の感触はまるで変わりましたが、どちらも楽しめました。こうして観ると当時はテンポ早過ぎと思ったオリジナル版も、最近の映画に比べるとのんびり牧歌的なのでしょうね。22年間でハリウッド映画のテンポはかなり変わりました。そもそも編集が全然違いますからね。


ハリー・グレッグソン=ウィリアムズの音楽は面白くなかったです。さらりと出るタイトルも含めて、つまらない現代ハリウッド調音楽でした。つまり打ち込み主体でメロディラインに欠け、面白くも何ともないという代物。オリジナル版のジェリー・ゴールドスミスの音楽と、ウェイン・フィッツジェラルドによるデザインの冒頭タイトルは、わくわくさせられたものでした。その点でのわくわく感が減退したのは大いに残念です。


とは言うものの、全体としては幅広い層にも楽しめる映画となっていました。


トータル・リコール
Total Recall

  • 2012年 / アメリカ、カナダ / カラー / 118分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA (USA):Rated PG-13 for intense sequences of sci-fi violence and action, some sexual content, brief nudity, and language.
  • 劇場公開日:2012.8.10.
  • 鑑賞日時:2012.8.17.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜12/デジタル上映。平日金曜日のミッドナイトショウ、0時20分からの回は20人程の入り。
  • 公式サイト:http://bd-dvd.sonypictures.jp/totalrecall/ 予告編、ストーリー紹介、Blu-ra&DVD情報など。

ハンガー・ゲーム



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

文明崩壊後のアメリカ大陸は独裁国家ネムと化しており、そこでは富裕層のみが居住を許される都市キャピトルが12の地区を支配していた。パネムでは毎年1回、12歳から18歳の少年少女を選別して最後の1人になるまで殺し合いをさせるサバイバル・ゲーム「ハンガー・ゲーム」が開催されており、勝者は巨額の富を得られた。一家を狩猟で養う少女カットニス(ジェニファー・ローレンス)は、幼い妹がハンガー・ゲームに選出された事から、とっさに身代わりを申し出る。精鋭達相手に、同級生ピータ(ジョシュ・ハッチャーソン)と共にゲームに参加する事になった彼女に勝ち目はあるのか。


北米では大騒ぎの大ヒットを飛ばしたものの、こちら国内のTwitterのタイムライン上では散々な評価が多かったので、期待値下げての鑑賞です。それが功を奏したのか、結果的に結構楽しめました。


ディストピアにおける殺人ゲームSF映画は、古今東西に有名な映画が幾つもあるので、珍しくはありません。古くはロバート・シェクリイの『七番目の犠牲者』を映画化した『華麗なる殺人』(1965)。ロバート・ハリソンの小説の映画化『ローラーボール』(1975)及びそのリメイク版(2002)。スティーヴン・キングの小説を映画化した『バトルランナー』(1987)。それにロジャー・コーマン製作による売れる前のシルヴェスター・スタローン出演の『デス・レース2000年』(1975)に、忘れちゃならない深作欣二の『バトル・ロワイヤル』(2000)と、結構あります。しかしジュブナイル仕立ての大作というのは新機軸ではないでしょうか。原作はスーザン・コリンズの全米ベストセラーで、『トワイライト』シリーズのように若年層向けに売れているようです。因みに私はこれの元ネタじゃないかと言われている『バトル・ロワイヤル』は、原作も映画も未読未見ですけどね。


さてゲームが始まるまでの1時間も、いざゲームが始まってからも、懇切丁寧に説明してくれるのは如何にもハリウッド映画調。ちょい苦笑しましたが、脇役の怪演もあって面白かったです。地区のスカウトとして来た白塗りのエキセントリックな女性役エリザベス・バンクス。最初は誰か分かりませんでしたよ。マトモな役が多い彼女にとっては、『40歳の童貞男』以来の怪演でしょうか。如何にもアヤしげでエキセントリックな司会者役スタンリー・トゥッチ。解説者役トビー・ジョーンズ。過去のチャンピオンとしてカットニスらに助言を与えるウディ・ハレルソン。凝った剃り具合の髭が目立つ、ゲームの設計者ウェス・ベントリー。独裁的大統領役ドナルド・サザーランド。脇を支えるヴェテラン勢の顔ぶれは中々良かったです。


でもこの映画は、やはり我らがジェニファー・ローレンスを観る為の映画でしょう。以前、タイムライン上でブス可愛いと言っていた方もいましたがが、特に絶世の美女でもないのに何でこんなに魅力的なのか。これは演技力の成せる技なのでしょうか。緊張に震える姿。テレビ番組内で視聴者達が望むように振る舞う、明るく聡明な姿。怒りと悲しみに打ち震える姿。死にもの狂いで走る姿。復讐に燃える姿。愛しい者に触れる姿。ジェニファー・ローレンスの演技カタログ・ショウ、これは彼女のアイドル映画と言っても良いのです。2時間半近い上映時間でほぼ出ずっぱりで、大作映画をしょって立つのですから、これは求心力がある証拠。まだ20代になったばかりの彼女の若々しくも凛々しい姿を、これは応援する映画でもあるのです。ですから故郷に残されたボーイフレンド役リアム・ヘムズワースら、他の若手の影が薄くなるのも仕方ありません。


ドーム状らしい競技場の描写等も含めて、未来SF映画らしい映像も多かったのも個人的には楽しかったです。キャピタル・シティの描写は70年代SF映画調で、『2300年未来への旅』『未来惑星ザルドス』等を連想しました。ゲーム開始までの丁寧な描き方は、監督ゲイリー・ロスの長所が出ています。『カラー・オブ・ハート』『シービスケット』等を思い出させ、ゲーム開始までの期待を繋ぎます。ですから後半は非常に残念でした。原作も同様らしいのですが、ヒロインが直接手を下す場面が殆ど無く、周囲で勝手に殺し合って数が減っていく展開となっています。そこそこ緊張感のある場面もあって退屈はしないのですが、明らかにパンチ不足。『シービスケット』のレース場面にあったような迫力を期待していたので、これは全くの期待外れです。


日本版のみと思われる、ラストシーン直後の日本語テロップも最悪で、映画の余韻をぶち壊すもの。エンドクレジット後にすれば良かったのに…。ジェームズ・ニュートン・ハワードの音楽は映画には合っていました。T・ボーン・バーネット選曲による歌の数々も良かったです。


ハンガー・ゲーム
The Hunger Games

  • 2012年 / アメリカ / カラー / 142分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫:PG12(慎重な表現による未成年者間の強制された格闘・殺傷、死体の描写がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。)
  • MPAA (USA):Rated PG-13 for intense violent thematic material and disturbing images - all involving teens.
  • 劇場公開日:2012.9.28.
  • 鑑賞日時:2012.10.10.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜9/デジタル上映。平日水曜日12時50分からの回、309席の劇場は5割程の入り。
  • 公式サイト:http://www.hungergames.jp/ 映画情報、予告編、”ハンガー・ゲーム”の解説等。

アイアン・スカイ



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

2018年。再選を目指す為の人気取りとして、参謀のヴィヴィアン(ペータ・サージェント)に吹き込まれた女性アメリカ大統領(ステファニー・ポール)は、半世紀ぶりに月面に人類を送り込む。そこで宇宙飛行士が発見したのは、ナチスの残党が築き、コーツフライシュ総統(ウド・キア)が統括する巨大秘密基地だった。彼らは飛行士ワシントン(クリストファー・カービイ)が黒人なのにびっくり仰天する。自分達アーリア人を優性人種と信じている彼らは、実は空飛ぶ円盤艦隊を使っての地球侵略を目論んでいたのだ。虎視眈々と総統の座を狙う将校アドラーゲッツ・オットー)は、ファシズムを信じる純朴な学者レナーテ(ユリア・ディーツェ)と共に、艦隊に先立ってアメリカに降り立つ。


フィンランド発のこの映画、馬鹿馬鹿しくも面白いアイディアを、皮肉と風刺を効かせたブラックコメディに仕立てられていてご立派です。監督ティモ・ヴオレンソラマイケル・カレスニコの脚本家コンビは、『チャップリンの独裁者』や『博士の異常な愛情』等の過去の名作映画ネタを盛り込みつつ、面白い趣向を凝らそうとしています。しかしながら、正直言って中盤まではまどろっこしくて、そこそこ面白い程度に留まっていました。くすりニヤニヤする場面はあれど、弾み方が物足りないのです。しかし後半のナチス総攻撃から盛り上がります。宇宙軍大元帥こと故・野田昌宏の名言「SFは絵だ!」を思い出しました。「絵」的には優れているこの映画、ナチの秘密基地がペンタゴンならぬハーケンクロイツの形をしているのも笑えますが、バカでかい巨大建造物が月面にどでんと立っている様が見られるのは、ファンタスティックで楽しい。それと総攻撃に出陣する場面。巨大な母艦がうようよいる艦隊から、攻撃用空飛ぶ円盤の大軍が出撃する様はカッコ良い。しかもそこからの後半では、地球側も一方的にやられる訳じゃないので益々盛り上がります。メカ群対メカ群の戦いは壮観ですし、もっともっと観たいと思わせました。デザインの感触としては、『未来少年コナン』等における宮崎駿に近いでしょうか。それらの合間に戦争批判もちらりと入れ、笑わせてくれる、後半でぐんぐん伸びた映画でした。アメリカ批判もキツいですが、世界各国の皮肉ネタも可笑しい。ここでは余りギャグは書かないでおきましょう。


それでも少々物足りなく感じるのは、折角のトンデモ系ナチネタなのだから、もっと新兵器等にこだわって撮っても良かったのでは、と思わせたからです。だって第二次世界大戦中のナチスは、「人間って役に立たないものを、巨額のお金をかけてマジメに作るんだな」と思わせるヘンテコ武器の宝庫なのですよ。そこをもっと突っ込んでもらいたかったし、その方がさらにSFとして面白みも増した事でしょう。艦隊も如何にもナチっぽいデザインで嬉しくなりますが、活躍の場がもっとあっても良かった。でもスタッフには余りそんな趣味はなかったのか、あるいは予算のせいなのか、少々残念です。


ヒロインのユニア・ディーツェは可愛かったです。序盤から下着姿でしょーもないギャグまで見せてくれて。この場面で笑えたあなたは、この映画のターゲット層でもあるのです。


こんな映画を劇場公開してくれて、配給会社プレシディオ、ありがとう!そもそも製作資金不足だったので、Youtubeに予告編だけ作ってネットでの資金集めをしていた映画です。それが無事に完成し、しかも日本でも公開されたのは喜ばしい限りですよ。


アイアン・スカイ
Iron Sky

  • 2012年 / フィンランド、ドイツ、オーストリア / カラー / 93分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫:PG12(性的台詞及び殺傷がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。)
  • MPAA (USA):Rated R for language and some violence.
  • 劇場公開日:2012.9.28.
  • 鑑賞日時:2012.9.28.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜6/デジタル上映。公開初日土曜23時15分からの回は30人程の入り。
  • 公式サイト:http://gacchi.jp/movies/iron-sky/ 予告編、映画情報、ツイッタースキン・ダウンロード等等。