アイアン・スカイ



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

2018年。再選を目指す為の人気取りとして、参謀のヴィヴィアン(ペータ・サージェント)に吹き込まれた女性アメリカ大統領(ステファニー・ポール)は、半世紀ぶりに月面に人類を送り込む。そこで宇宙飛行士が発見したのは、ナチスの残党が築き、コーツフライシュ総統(ウド・キア)が統括する巨大秘密基地だった。彼らは飛行士ワシントン(クリストファー・カービイ)が黒人なのにびっくり仰天する。自分達アーリア人を優性人種と信じている彼らは、実は空飛ぶ円盤艦隊を使っての地球侵略を目論んでいたのだ。虎視眈々と総統の座を狙う将校アドラーゲッツ・オットー)は、ファシズムを信じる純朴な学者レナーテ(ユリア・ディーツェ)と共に、艦隊に先立ってアメリカに降り立つ。


フィンランド発のこの映画、馬鹿馬鹿しくも面白いアイディアを、皮肉と風刺を効かせたブラックコメディに仕立てられていてご立派です。監督ティモ・ヴオレンソラマイケル・カレスニコの脚本家コンビは、『チャップリンの独裁者』や『博士の異常な愛情』等の過去の名作映画ネタを盛り込みつつ、面白い趣向を凝らそうとしています。しかしながら、正直言って中盤まではまどろっこしくて、そこそこ面白い程度に留まっていました。くすりニヤニヤする場面はあれど、弾み方が物足りないのです。しかし後半のナチス総攻撃から盛り上がります。宇宙軍大元帥こと故・野田昌宏の名言「SFは絵だ!」を思い出しました。「絵」的には優れているこの映画、ナチの秘密基地がペンタゴンならぬハーケンクロイツの形をしているのも笑えますが、バカでかい巨大建造物が月面にどでんと立っている様が見られるのは、ファンタスティックで楽しい。それと総攻撃に出陣する場面。巨大な母艦がうようよいる艦隊から、攻撃用空飛ぶ円盤の大軍が出撃する様はカッコ良い。しかもそこからの後半では、地球側も一方的にやられる訳じゃないので益々盛り上がります。メカ群対メカ群の戦いは壮観ですし、もっともっと観たいと思わせました。デザインの感触としては、『未来少年コナン』等における宮崎駿に近いでしょうか。それらの合間に戦争批判もちらりと入れ、笑わせてくれる、後半でぐんぐん伸びた映画でした。アメリカ批判もキツいですが、世界各国の皮肉ネタも可笑しい。ここでは余りギャグは書かないでおきましょう。


それでも少々物足りなく感じるのは、折角のトンデモ系ナチネタなのだから、もっと新兵器等にこだわって撮っても良かったのでは、と思わせたからです。だって第二次世界大戦中のナチスは、「人間って役に立たないものを、巨額のお金をかけてマジメに作るんだな」と思わせるヘンテコ武器の宝庫なのですよ。そこをもっと突っ込んでもらいたかったし、その方がさらにSFとして面白みも増した事でしょう。艦隊も如何にもナチっぽいデザインで嬉しくなりますが、活躍の場がもっとあっても良かった。でもスタッフには余りそんな趣味はなかったのか、あるいは予算のせいなのか、少々残念です。


ヒロインのユニア・ディーツェは可愛かったです。序盤から下着姿でしょーもないギャグまで見せてくれて。この場面で笑えたあなたは、この映画のターゲット層でもあるのです。


こんな映画を劇場公開してくれて、配給会社プレシディオ、ありがとう!そもそも製作資金不足だったので、Youtubeに予告編だけ作ってネットでの資金集めをしていた映画です。それが無事に完成し、しかも日本でも公開されたのは喜ばしい限りですよ。


アイアン・スカイ
Iron Sky

  • 2012年 / フィンランド、ドイツ、オーストリア / カラー / 93分 / 画面比:2.35:1
  • 映倫:PG12(性的台詞及び殺傷がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。)
  • MPAA (USA):Rated R for language and some violence.
  • 劇場公開日:2012.9.28.
  • 鑑賞日時:2012.9.28.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜6/デジタル上映。公開初日土曜23時15分からの回は30人程の入り。
  • 公式サイト:http://gacchi.jp/movies/iron-sky/ 予告編、映画情報、ツイッタースキン・ダウンロード等等。