ローン・サバイバー



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

2005年6月。アメリカ海軍の特殊部隊ネイビー・シールズに対して、極秘任務が下される。アフガニスタン山岳地帯に潜むビン・ラディンの側近でタリバンのリーダー、アフマド・シャー殺害をせよ、というのだ。実行部隊は4人。リーダーのマイケル・マーフィ大尉(テイラー・キッチュ)、マーカス・ラトレル二等兵曹(マーク・ウォールバーグ)、マシュー・アクセルソン二等兵曹(ベン・フォスター)、ダニー・ディーツ二等兵曹(エミール・ハーシュ)がメンバーだ。エリック・クリステンセン少佐(エリック・バナ)指揮の元、電波の悪い険しい山岳地帯に降り立ったシールズだが、隠密作戦の最中、羊飼い達に見つかってしまう。民間人を殺害すれば、倫理に背くだけではなく、世界中からの非難を浴びて国際問題へと発展するのは明らかだ。しかし見逃せばタリバンに通報され、追われる危険が非常に高い。無線が通じない孤立した中で、4人は激論し、遂には羊飼い達を解放する。その結果…200人ものタリバン兵らが四方八方から攻撃して来るのであった。徐々に追い詰められる4人を待ち受ける運命とは。


アメリカ軍に大損害をもたらしたというレッド・ウィング作戦の映画化です。私はこの作戦自体知らなかったのですが、孤立無援で絶体絶命の中、奇跡的に生き延びた兵士の手記を基にしています。


映画の幕開けは、シールズの過酷な訓練模様を捉えたドキュメンタリ映像です。常人だったらとても耐えられないような、文字通りしごきとしか言いようのない、理不尽なまでの訓練の数々。当然ながら脱落者も続々出て来ます。この試練をくぐり抜けられた者達だけが持ち得る一心同体の精神は、必然でしょう。これが映画中盤以降の戦闘場面で効いて来ます。


監督と脚本はピーター・バーグ。近年は俳優としてよりも、監督&脚本家として活動中の人です。特に『キングダム/見えざる敵』『バトルシップ』での歯切れの良いアクションが印象的でした。本作は作戦開始と同時に緊張感が澱み無く続き、アクションも観ていて痛い描写が満載です。一般人ならばとっくに死んでいるであろう状況でさえ、シールズ隊員らは戦い続けるのですから。観客を実戦に放り込んだかのような、臨場感満点で力強い演出が目を引きます。私はバーグ作品全部を観た訳ではありませんが、これは監督としての技術力が最高に発揮された作品ではないでしょうか。


一方で、観ている間に気になる点も出て来ます。冒頭のドキュメンタリ映像から、仲間同士の強固な結束、自己犠牲等が強調されるので、これは余りに海兵隊万歳の映画ではないのか、と。しかしこの映画での山場は、実は好戦性とは対照的な場面である事に気付かされます。映画序盤の最初の山場は、捕えた羊飼い達をどうするか、という場面です。シールズ隊員同士での、生かすか殺すかの大激論。しかし最終的に彼らは、自分達を死地へと追い込むであろう選択を行います。そして後半の山場。生き残った兵士に思わぬ助けの手が差し伸べられるのです。


苛烈な戦闘場面が強烈な映画です。が、劇中で最も重きを置かれているのは、「殺す」のではなく「生かす」「助ける」行動であり、その精神の気高さでした。バーグは軍事マニアだそうですが、そのような視点を持っているところが単なるマニアではない、優れた映画監督である証し。これは中々に骨太な映画なのです。


主要人物が皆髭面、戦闘場面もカタルシスがまるでない臨場感重視という映画ですが、静と動の音響デザインも含めて細部まで丁寧に作られていました。俳優達も皆、熱演しています。


ローン・サバイバー
Lone Survivor

  • 2013年|アメリカ|カラー|121分|画面比:2.35:1
  • 映倫:PG12(戦闘における銃器による殺傷・鮮血の描写がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。)
  • MPAA (USA): R(Rated R for strong bloody war violence and pervasive language.)
  • 劇場公開日:2014.3.21.
  • 鑑賞日:2014.3.21.
  • 劇場:TOHOシネマズ横浜ららぽーと2/デジタル上映鑑賞。公開初日の金曜日、3連休初日の23時40分からの回は20人程の入り。
  • 公式サイト:http://www.lonesurvivor.jp/ 予告編、作品紹介、コラム「池上彰が解説。」といったコーナー等々。

オンリー・ゴッド



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

バンコクでキックボクシング・クラブのオーナーをしているジュリアン(ライアン・ゴズリング)は、麻薬組織を仕切っている青年だ。ある日、実兄ビリーが惨殺された。売春をしていた14歳の少女を殺害し、その父親に復讐されたのだ。復讐を促したのは元刑事のチャン(ヴィタヤ・パンスリンガム)。彼は独自の基準で苛烈な制裁を行う男でもある。やがて兄弟の母クリスタル(クリスティン・スコット・トーマス)がアメリカ本国から乗り込んで来る。組織のボスでもあるクリスタルは、チャンへの復讐をジュリアンに命じるが。


氾濫する色彩。じわり観客を責め立てる暴力。物言わぬ無表情な主人公。『ドライヴ』でコンビを組んだ、監督ニコラス・ウィンディング・レフンと主演ライアン・ゴズリングの2人が作り上げた犯罪映画で基調と成すのは、それらの要素です。前作は定番の犯罪映画のプロットを風変りに仕立ててありましたが、本作はそれ以上にユニークな作品となっています。特に目を引くのは過激でどんよりとした徹底的な暴力と、人工的な照明も含めた映像です。血を血を洗う復讐の連鎖は目を背けたくなるような肉体損壊描写で満たされ、それらは赤、青、黄といった照明に照らされた夜のバンコクの街に、幻想の一部として埋没していきます。私が映画を観ながら想起したのは、スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』と、ラース・フォン・トリアーの『エレメント・オブ・クライム』でした。唐突に挿入される幻想場面の効果もあり、映画を観ている間、外宇宙と内宇宙を行き来するかのような感覚に襲われます。


超暴力的な描写が強烈な印象を残しますが、必ずしもリアリスティックな作りではありません。凄惨な描写は頻発するものの、この世の出来事ではないかのような撮り方。これはあの世とこの世を繋ぐ幻夢的映画です。


そもそもチャンという男がユニークです。白い襟に真っ黒な半袖シャツを着ている彼は、制裁を加えるときに服の背中のどこかに隠し持っていた剣を抜き出します。これだけで非現実的ではないですか。チャンは時に他者の復讐を担い、時に悪への制裁を下します。しかしその基準は判然としません。チャンは無慈悲な神そのものと思って良いでしょう。こちらの声は決して届かず、また公平・不公平など気にせず、気まぐれにしか思えないような行動を取る神。一方で幼子を可愛がる面も持っている神。東南アジアが舞台であるものの、その神としての像は非常に西欧的です。神は制裁を下した後、カラオケに興じます。いや、興じてはいないのでしょう。日本のカラオケボックスやカラオケバーと違い、能面のような客が聴衆となっている店内で、真摯そのものに歌うのですから。あたかも儀式のように。


そんなチャンに挑むのがジュリアンです。世界一後頭部が美しいライアン・ゴズリングは、無表情で無口な、でも淡々と神に挑む男を演じています。ジュリアンは能動的ではなく、運命を受け入れる男として描かれています。となると、彼は神に挑むのではなく、神に触れたいだけなのかも知れません。


彼を支配する怒れる母親役クリスタルが強烈です。明るい基調の服にブロンド・ヘア。兄ビリーを贔屓してジュリアンには冷たく、情け容赦ない文字通りのボス。クリスティン・スコット・トーマスは『イングリッシュ・ペイシェント』での気品あるヒロイン役が印象的でしたが、本作では肉付きと共に貫禄が増した怪物役を怪演しています。彼女もまた理不尽な神に、そうとは知らずに戦いを挑むのです。


プロットは犯罪映画のそれでも、全体的に神話的色彩を帯びている映画は、冒頭から幻想的です。そしてここには、己の描きたい事を己の世界観で描き尽くそうという、作者の強い意志が感じられます。台詞は極端に削ぎ落とされた無口な映画なのに、映像や音楽など饒舌ですらあります。だから90分という短い時間は濃密そのもの。その独特な世界に私はすっかり魅了されてしまいました。しかもその饒舌さは攻撃性とは全くかけ離れたもの。となるとこの映画は、神に挑んだ男の物語ではなく、神と対話したかった男の物語なのかも知れません。



オンリー・ゴッド
Only God Forgives

  • 2013年|フランス、タイ、アメリカ、スウェーデン|カラー|90分|画面比:1.85:1
  • 映倫:R15+(刺激の強い殺傷・鮮血飛散、肉体損壊、拷問及び惨殺死体の描写がみられ、標記区分に指定します。)
  • MPAA (USA): R(Rated R for strong bloody violence including grisly images, sexual content and language.)
  • 劇場公開日:2014.1.25.
  • 鑑賞日:2014.2.10.
  • 劇場:横浜バルト9 シアター8/デジタル上映鑑賞。公開3週目の飛び石連休の谷間、平日月曜15時40分からの回は20人程の入り。過半数が中高年女性客だったのは、ライアン・ゴズリング目当てだったのかな。
  • 公式サイト:http://onlygod-movie.com/ 予告編、作品紹介、各界著名人のコメント等。

プリズナーズ



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

ペンシルヴァニア州工務店を営むケラー(ヒュー・ジャックマン)は、妻グレイス(マリア・ベロ)と共に郊外の住宅街で幸せな家庭を築いていた。感謝祭の日、近所に住むフランクリン(テレンス・ハワード)とナンシー(ヴィオラ・デイヴィス)の親友夫妻の家に招かれて祝っていたところ、それぞれの夫婦の幼い娘達のアナとジョイが行方不明になってしまう。警察も含めて必死の捜索にも関わらず見つからない子供達。やがて10歳の知能しかない青年アレックス(ポール・ダノ)が容疑者として逮捕される。自白もせず、証拠もない為に釈放されたアレックスが何か知っていると睨んだケラーは、彼を拉致監禁。自らの拷問にかけて自白させようとする。一方、冷静沈着な刑事ロキ(ジェイク・ギレンホール)は、少しずつ事件の真相に迫って行くのだが。


「囚われ人たち」とは、何と意味深なタイトルなのでしょうか。行方不明の少女2人の事かと思って観始めると、それが色々な意味を帯びてくると分かってきます。愛する娘を探す必死さ余りに、容疑者に対して一線を越える父親ケラー。彼は敬虔なクリスチャンで明らかに宗教に囚われていますが、同時に自らの罪にも囚われていきます。そのケラーに囚われるアレックス。彼もまた、あるものに心を囚われています。今は優秀な刑事ロキも、少年時代に恐らくは問題児だったようですが、過去に囚われているのでしょう。全身タトゥーだらけのようですが、ワイシャツのボタンは常に1番上まで留めて隠しているのですから。椅子に縛り付けられたままミイラ化した男も囚われ人の1人です。迷路に取りつかれた男は、人心の闇のメタファーでしょう。全ての人は、何がしかの囚われ人だと言えるのかも知れません。ある者は宗教に、ある者は親の教えに、ある者は…というように。


ミステリとしてあちこちに伏線が張られており、後半にはそれらが次々と回収されていく作り込みになっていますが、それらが嫌味になっていません。捻りの効いた非常に完成度の高い娯楽スリラー/ミステリでありながら、ドゥニ・ヴィルヌーヴの演出とアーロン・グジコウスキーの脚本が、ずっしりとした密度の濃いドラマとしても成立させているからです。


映画は観る者に「あなただったら、どうする?」と突き付ける挑発的な内容も併せ持っています。事件に巻き込まれてしまう各人の反応はとても人間味があり、その誰かに自分自身を重ね合わせられるのが可能です。必死さの余り暴力に訴える者。寝込んで臥せってしまう者。罪と知りながら止められない者。ヒュー・ジャックマンは愛する娘を見つける為に暴走していく父親を大熱演しています。もう一人の主人公であるジェイク・ギレンホールも素晴らしい。常に感情を抑えている冷静な刑事で、人間味も温かみも静かに演じていて。容疑者役ポール・ダノはこういう役が上手い。他にもヴィオラ・デイヴィステレンス・ハワードマリア・ベロメリッサ・レオらが、見事な演技を見せてくれます。


忘れてならないのが、名匠ロジャー・ディーキンスによる美しい撮影です。近年の『トゥルー・グリット』や『007/スカイフォール』等のような、1ショット1ショットが痺れるような構図はかなり控え目。その分、映画の語り部として貢献しています。HD撮影ならではのコントラストがはっきりした、しかも陰影に富んだ映像の数々。特にクライマクスの激走場面。あの美しさは何でしょう。登場人物の必死さとあの映像でもって、忘れえぬ場面となっています。


忘れえぬ場面と言えばあのラスト。救いはあるのか、どうなのか。深い心の闇と余韻を画面に残したままで、ばっさり終わるタイミング。素晴らしい。


プリズナーズ
Prisoners

  • 2013年|アメリカ|カラー|153分|画面比:1.85:1
  • 映倫:PG12(銃による殺傷・出血、拉致監禁がみられるが、親又は保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。)
  • MPAA (USA): R(Rated R for disturbing violent content including torture, and language throughout.)
  • 劇場公開日:2014.5.3.
  • 鑑賞日:2014.5.5.
  • 劇場:TOHOシネマズららぽーと横浜4/デジタル上映鑑賞。公開3日目のゴールデンウィーク月曜0時10分からの回、113席の劇場は15人程の入り。
  • 公式サイト:http://prisoners.jp/ 予告編、映画紹介等。

アナと雪の女王



★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

王国アレンデールの幼い王女姉妹エルサとアナは仲良しだった。だがある夜、姉エルサの触れたものを凍らせる能力によって、妹アナは命の危険にさらされてしまう。責任を感じたエルサはその能力を封印し、自室に閉じこもり、アナと距離を置くようになる。命と引き換えに姉の能力に関する記憶を消されたアナもまた、孤独に成長して行く。年月が経ち、国王・女王である両親の死去により、成人したエルサ(声:イディナ・メンゼル松たか子)は女王として王位を継承する事になる。久々に姉妹で気まずい再会をした戴冠の日だったが、自らの力を制御出来ずに王国を雪と氷の国に変えてしまったエルサは、動揺し、山へと逃亡してしまう。アナ(声:クリステン・ベル/神田佐也加)は、姉と王国を救うべく、山に向かうが。


かつては面白い作品を連発していたピクサーが、このところ自己再生産を繰り返してばかりで凋落が止まりません。一方、そのピクサーを買収して自社に取り込んだディズニーは好調です。昨年の『シュガー・ラッシュ』といい、これといい、古典的ディズニー・アニメ映画のフォーマットに則りながらも、現代的な内容の優れて面白い作品を連発しています。いや素晴らしいと思っていたら、どちらもジェニファー・リーの脚本によるものでした。本作は彼女の初監督作品でもあります(クリス・バックとの共同監督)。リー個人の功績も大きいので、ディズニーのさらなる黄金期が続くのかどうかは、まだ見守る必要があるとして、これは間違いなく傑作です。


映画を観ながら、「アンデルセンの『雪の女王』を原作にしていた筈なのに」など難癖つけるのは野暮というもの。私もこんな話だったっけと思っていたのですが、実際のところはオリジナル作品と言って良いでしょう。ここはアナとエルサの数奇な冒険と運命、そして彼らの旅で出会う愉快な仲間達を純粋に楽しみましょう。短時間で観客の心を掴む話術、個性豊かな人物造形、随所に挿入されるユーモアと、古典的なディズニーアニメ映画のノウハウが生かされています。ここら辺は老舗の伝統の強さを感じました。


人物造形で1番目を引くのは、やはりヒロインの2人です。明るく行動的、強気な…でもやや短絡的な性格のアナと、内省的で思慮深く、だが自らをコントロールできないエルサ。しかし山に逃亡したエルサは、孤独になって初めて自己を解放していくのです。ここで歌われる「Let it Go」の場面は、映画史に残る事でしょう。ドラマと映像と歌が一体となり、壮観でカタルシス満点で感動的です。映画のハイライトを前半に持って来る作者達の度胸も満点。ロバート・ロペス&クリステン・アンダーソン=ロペス夫妻による魅力的な楽曲と、イディナ・メンゼルの熱唱もあって、何度でも繰り返して観たくなる数分間となりました。実のところ、ミュージカル場面は殆どが前半から中盤にかけて集中しており、後半はミュージカルは排除されたドラマ色、アクション・アドベンチャー色が強くなってきます。ミュージカル好きとしては少々物足りなく感じますが、これは現代的な映画として致し方ありません。しかしここで聴ける楽曲の数々は、極上の楽しさに溢れています。序盤に歌われる「生まれてはじめて」は、戴冠式での舞踏会を心待ちにする解放感溢れるアナと、誰にも自分の能力を知られたくないエルサの歌が交わり、対象的な心情が同時進行で歌われる、これぞミュージカルならではのドラマティックさ。アナと、知り合ったばかりの王子ハンスとのコミカルなデュエット「とびら開けて」は楽しいし、エルサが創り出した雪だるまのオラフが歌う「あこがれの夏」は愉快です。ミュージカル映画の、そしてアニメーションならではの、誇張や省略が活かされた作りが嬉しい。


この作品が多くの支持を集めているのは、恐らく人物造形にもあるのではないか、とも思います。アナとエルサだけではありません。トナカイの相棒スヴェンと共に氷を運ぶ生業をしている、不器用で無骨な、でも心根優しい青年クリストフ。あるいは夏を夢見る雪だるまオラフ(当然、夏には雪だるまは溶けてしまいますが、そんな事は思いも寄らないのです)。彼らの誰かに感情移入する人は多い事でしょう。


物語は起伏に富み、ディズニー映画としては予想を裏切られる展開も終盤に幾つか用意されています。その最大のものは、ディズニー映画で取り上げられる事の多い「真実の愛」でしょう。この視点こそが現代ならではの映画にしている最大のものです。だから一部で言われている「最後まで救世主(王子)が現れない」といった批判は、むしろ古色蒼然たる視点だと思いました。


ディズニーアニメでも傑作の部類に入る本作。これを劇場で見逃す手はありません。


尚、同時上映の短編映画『ミッキーのミニー救出大作戦』もスラプスティックな楽しさに溢れた作品です。


アナと雪の女王
Frozen

  • 2013年|アメリカ|カラー|102分|画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):G
  • 劇場公開日:2014.3.14.
  • 鑑賞日:2014.3.21.(1度目)、2014.3.23.(2度目)
  • 劇場:イオンシネマ港北1(1度目)/TOHOシネマズ横浜ららぽーと1(2度目)デジタル上映鑑賞。公開2週目の3連休初日の金曜14時40分からの英語2D版上映の回、388席の劇場は6割程の入り(1度目)。/公開2週目の日曜9時00分からの日本語吹替え2D版上映の回、401席の劇場は7割程の入り(2度目)。
  • 公式サイト:http://www.disney.co.jp/movies/anayuki/ 予告編、作品情報など。BD/DVD発売の宣伝告知となってからは、かなり簡素な作りになっている。

アデル、ブルーは熱い色



★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

17歳の高校生アデル(アデル・エグザルコプロス)は、上級生トマとの初デートに向かう途中ですれ違った、青い髪の女に目を奪われる。トマと付き合い出したアデルは、やがて彼に別れを告げ、ゲイの同級生に誘われて夜の街へと出掛け、偶然入ったゲイバーで青い髪の女と再会する。彼女はエマ(レア・セドゥ)という美大生だった。やがて2人は付き合い出すのだが。


日常の中で一瞬訪れる、息が止まるような一目惚れ。そんな場面に至るまで、映画ではアデルの家庭や高校での生活などが、延々と執拗に、現実味を持って描かれています。だからいわゆる普通のラヴロマンス映画を期待すると、かなり違うのでしょう。実際、私も「普通のドラマ映画」を期待していました。ところが3時間ものこの映画は、いわゆる映画音楽の類は一切使われず、全編ドキュメンタリ・タッチで押し通します。アブデラティフ・ケシシュの演出は1つ1つの場面を長く、こってりと、肌感覚で描き出しました。しかも偶然にカメラが捉えたかのような錯覚を、観客に覚えさせます。


物語だけ追えば、ハリウッド映画ならば2時間も掛からないであろう内容です。しかしこの映画は、本筋に関係無いであろう会話場面でさえも長く描き出します。日常の一コマである授業場面でさえも、教師の問いに対する各生徒の回答を延々撮るのです。主人公アデルはその場にいるだけで、絡む絡まないにも関わらず。これは1人の少女の性と生を数年に渡って綴った映画に相応しいタッチとペースです。何故ならこの映画は、その数年間の場面場面を丸ごと抜き出したかのような作りになっているから。原題の「アデルの時代」はそんな意味も込められているのでしょう。だから何の変哲もない日常でさえ執拗に描かれているのです。


まるでアデルの私生活を覗き見するかのような作りの映画ですが、ただそれだけではありません。これは綿密に映像が計算された映画でもあります。青が至るところに配置され、またその使われ方も効果的でした。例えば髪を青く染めなくなったエマの心。あるいは青いドレスを着るアデルの心。そんな色使いも読み解きたくなります。


話題になっているリアルなセックス・シーンの数々も、欲情とか激情とか肉体のぶつかり合いをとかを描いていて、息を呑むよう。特にアデルとエマの最初のセックス・シーンは、アデルの人生を変えてしまうような経験として、延々と強烈に描かれていました。日本ならではの検閲の爪痕であるボカシが入るのは大変残念ですが、それも最小限だったのが幸いです。



現実味のある描写と言えば、劇中に頻繁に登場する食事もそう。食べ方も皆、上品ではない、普通の食べ方で面白い。中でも食欲旺盛なアデルがナイフまで舐める序盤の描写は印象に残りました。食も性も生きる上での要素ですから。


燃えるような恋や嫉妬等を描きつつ、かといって単純な成長物語にはなっていません。様々な体験をしつつも、辛い事を癒し、受容していくには時間が掛かるもの。そんな経験をしても、自分が変わるのはほんの少し。時間が掛かった割りのほんの少しの変化こそが、本当の成長なのでしょう。そこもまた現実的で、とても良かったです。


アデル役のアデル・エグザルコプロスは全編出ずっぱりで、非常に強い印象を残します。これが初の大役だそうですが、素晴らしい逸材がいたものです。彼女には今後も注目して行きたい。レア・セドゥも今までの映画とは全く違う印象で、こちらもとても良かった。これはこの2人の女優を観る映画でもあります。お勧めです。



アデル、ブルーは熱い色
La vie d'Adèle - Chapitres 1 et 2

  • 2013年|フランス、ベルギー、スペイン|カラー|179分|画面比:2.35:1
  • 映倫:R18+(極めて刺激の強い性愛描写がみられ、標記区分に指定します。)
  • MPAA (USA): Rated NC-17 for explicit sexual content.
  • 劇場公開日:2014.4.5.
  • 鑑賞日:2014.4.28.
  • 劇場:Bunkamura ル・シネマ1/デジタル上映鑑賞。平日月曜12時15分からの回、150席の劇場は7割程の入り。
  • 公式サイト:http://adele-blue.com/ 予告編、スタッフ&キャスト紹介、レヴュー等。

キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

2年前にアベンジャーズの一員として、異星人種族チタウリの地球侵略を退けたキャプテン・アメリカことスティーヴ・ロジャース(クリス・エヴァンス)は、共に活躍したブラック・ウィドウことナターシャ・ロマノフ(スカーレット・ヨハンソン)と一緒に、諜報機関S.H.I.E.L.D.で働いていた。ジョルジュ・バトロック(ジョルジュ・サンピエール)に統率されているアルジェリア系海賊にシージャックされた船舶から、人質に取られているS.H.I.E.L.D.隊員達を救出を任されたロジャースとロマノフは、これをきっかけに巨大な陰謀に巻き込まれて行く。今まで仲間だったS.H.I.E.L.D.隊員らに襲い掛かられ、さらには長官ニック・フューリー(サミュエル・L・ジャクソン)までもが襲撃を受けてしまう。そして彼らの前には、無敵かつ正体不明の殺し屋ウィンター・ソルジャーが立ちはだかる。


自らが所属する巨大諜報機関の陰謀を知った職員が、追手から逃げ回りながら真相に近付いて行く。このプロットでまず思い出されるのが、ロバート・レッドフォード主演の1975年の名作スリラー『コンドル』です。リベラルで人間味のあるヒーローを多く演じて長年活躍してきたそのレッドフォードが、本作ではS.H.I.E.L.D.トップとして配役されているのがとても面白い。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』は、1970年代風の政治スリラーを、現代アメコミ・ヒーロー映画として映画化するとこうなる、という好例になりました。こう書くとアナクロなスリラーに思えるかも知れません。しかし我々には、CIA末端職員だったエドワード・スノーデンオバマ政権の諜報活動をバラし、追われているのを知っています。また映画に活かされているネタとして、オバマ政権が無人機を多用して「テロリスト」と目した人々を攻撃しているのも知っています。つまりこの映画は、同時代性を盛り込んだスリラーとして作られているのです。この脚本を書いたクリストファー・マルクスとスティーヴン・マクフィーリーのコンビには、称賛を送りましょう。



キャプテン・アメリカは純情すぎるくらいに真っ直ぐな性格の、名前通りに愛国心溢れる男です。その彼が、愛してやまない国家への疑問を抱き、忠誠心を試されます。しかし彼は悩みません。自らに正直に決断し、行動します。近年の苦悩するヒーロー映画群に比べて、何と潔いのでしょう。136分と長尺の、しかし緊張感満点のこの映画にスピード感をもたらしているのは、間違いなく主人公の真っ直ぐさです。荒唐無稽そのもので、一歩間違えれば大笑いになりそうな設定のヒーローを、今回もクリス・エヴァンスは真摯に、高潔さを持って演じています。見逃せないのはエヴァンスと共演者達との相性の良さです。ロマンスではない感情が芽生えるブラック・ウィドウ役スカーレット・ヨハンソンとも、退役軍人にしてカウンセラーでもある、後のファルコンことサム・ウィルソン演じるアンソニー・マッキーとも、です。彼ら3人の関係には居心地の良さ、リラックスしたものが見て取れ、緊張感のある映画の清涼剤ともなっています。


そして何より、この映画は優れたアクション・スリラーです。映画には素晴らしい、文字通り息を呑むようなアクション場面が幾つも用意されています。序盤のシージャック制圧場面からしてスリリングですが、市街戦へと展開していく2つの場面は、近年のアクション映画の中でも屈指の出来栄えでしょう。ニック・フューリーが襲撃を受ける場面と、キャップ、ブラック・ウィドウ、ファルコンらが、ハイウェイでウィンター・ソルジャー率いる傭兵軍団から襲撃を受ける場面がそうです。絶体絶命の状況下での緊張と、反撃のカタルシスを盛り込んだアクションの引っ張り方が見事だし、文字通り手に汗握る迫力満点の展開となっています。もしこれがアクション映画の基準になったとしたら、ハードルはかなり高くなったと言わざるを得ません。私にはこれがお初のアンソニー・ルッソジョー・ルッソの兄弟監督は、マーベルの起用に応えて、思い切りの良さと緻密さを兼ね備えた演出を見せてくれました。映画後半での加速度的な盛り上がりと、目もくらむような大アクションも力感に溢れています。ユーモアの配分も良い。注目の兄弟監督です。


キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』は、幾つものモラルの問題を織り込みながら同時代性を抱き、優れたアクション・スリラーでありながらも、スーパー・ヒーロー映画として成立しています。アメリカン・コミック映画の中でもかなり上出来の部類に入りました。お見逃し無きよう。


キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー
Captain America: The Winter Soldier

  • 2014年|アメリカ|カラー|136分|画面比:2.35:1|2D撮影、2D/3D上映作品
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for intense sequences of violence, gunplay and action throughout.
  • 劇場公開日:2014.4.19.
  • 鑑賞日:2014.4.26.
  • 劇場:TOHOシネマズららぽーと横浜/デジタル上映鑑賞。公開2週目の土曜0時15分からの回、劇場は15人程の入り。
  • 公式サイト:http://www.marvel-japan.com/movies/captain-america2/ 予告編、キャラクター紹介、ニュース、関連商品紹介など。


ゼロ・グラビティ



★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

高度600kmの軌道上で、スペースシャトルがスペース・デブリ(宇宙のゴミ)に当たり大破、船外活動中だった医療技師のライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)と、ヴェテラン宇宙飛行士マット・コワルスキー(ジョージ・クルーニー)だけが生き残ってしまう。地上との通信は途絶え、2人を繋ぐのは命綱のみ。残っている酸素はわずか。絶体絶命の状況下、2人は必死に地球への生還を目指すが。


上映時間91分。舞台は殆どが宇宙空間。登場人物は殆ど2人のみ。これだけ聞くと地味な小品に思える向きもありましょうが、冒頭の10分程(しかも1ショット映像)を除いては危機また危機のアクション・スリラー映画としても観られる映画なのです。無駄な人物やドラマ、場面やショットですら削ぎ落としたかのような作りですが、サンドラ・ブロック演ずるストーン博士のドラマも描かれており、密度の濃い1時間半でした。


何よりも壮大な映像が物凄い。ドキュメンタリ調に臨場感あふれるものとする為に、極力1場面を1ショットに収めようという強い意志で作られた映画は、何しろ冒頭の船外活動から事故に至るまでの十数分が1ショット(に見えるように)撮られているのです。キャメラは何百キロもの遠くから、時にはヘルメットの中にまで入り込み、また主観映像にすらなります。最新技術を投入した映像体験は他に代えがたいもの。3D効果によって宇宙空間の「深さ」がより体感出来るようになっているし、また無重力空間に浮かぶ物体も、時にはドラマを効果的する役目すら担っているのです。強烈なのは宇宙空間の恐怖です。上下左右も分からず、ただ深淵に投げ出されたヒロインおののきが体感できます。まずは3D上映での鑑賞を、出来れば高画質大画面・大音響のIMAX上映を強くお勧めします。


そしてサンドラ・ブロックです。正直に言って彼女が、演技者としてこんなに素晴らしい女優だとは思いもしませんでした。感情の起伏や人物の変化を見せつつ、多面的な人物像を見せてくれるし、しかも感動的な場面は彼女の演技によるところも大きい。文字通りこの映画を背負って立っています。軽妙なクルーニーの好演も見逃せません。ブロックとの対比にもなっていて、儲け役で印象に残るものとなっていました。映画は1人の女性の死闘を描きつつ、普遍的な「生と死」に関するドラマになっており、こちらも面白い。劇中で幾度か登場する再生もしくは誕生のメタファーは、本作に大きな影響を与えている『2001年宇宙の旅』とリンクするもの。実際、あちらや『バーバレラ』を想起させるイメージは幾つもあり、それらに気付いて微笑みを浮かべられるのも、SF映画ファンならではの楽しみです。そして終始続く緊張感の後、原題の「重力」の意味が明らかになる力強いラストに感動が待っています。


現実の宇宙空間では音はありませんが、本作は独自のルールを設けています。基本的に人物が触れたものしか音がしません。つまり触感を音で表現しているのです。もっとも、物語が進行するに連れてルールは破られ、効果音が大きくなっていきます。後半の劇的効果を盛り上げる為なのでしょうが、『2001年』以来の宇宙では音がしない映画を期待していたので、少々残念でありました。


脚本はいささかのご都合主義に彩られ、おかしな描写も散見されます。余り科学的、現実的に見るのはお勧めできません。しかし強烈なスリルとサスペンスで引っ張る演出と、演技によるパワーによる世界に、ここは浸りたいものです。


スティーヴン・プライスの音楽は、マイケル・ナイマンの『ガタカ』を思い出させる哀愁を帯びた旋律もあるものの、こちらもヒロインの心理を描こうとしていて効果的でした。

ゼロ・グラビティ
Gravity

  • 2013年|アメリカ、イギリス|カラー|90分|画面比:2.35:1|2D撮影、2D/3D上映作品
  • 映倫(日本):G
  • MPAA (USA): Rated PG-13 for intense perilous sequences, some disturbing images and brief strong language.
  • 劇場公開日:2013.12.13.
  • 鑑賞日:2013.12.20.(1度目)、2014.1.4.(2度目)
  • 劇場:ユナイテッドシネマとしまえん8(1度目)、109シネマズクランベリーモール7(2度目)/デジタルIMAX 3D鑑賞。公開2週目の金曜16時15分からの回、345席の劇場は30人程の入り(1度目)。年始土曜10時5分からの回、361席の劇場は6割程の入り(2度目)。
  • 公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/gravity/ 予告編、壁紙、「宇宙遊泳を体験しよう」など。