アナと雪の女王



★film rating: A
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

王国アレンデールの幼い王女姉妹エルサとアナは仲良しだった。だがある夜、姉エルサの触れたものを凍らせる能力によって、妹アナは命の危険にさらされてしまう。責任を感じたエルサはその能力を封印し、自室に閉じこもり、アナと距離を置くようになる。命と引き換えに姉の能力に関する記憶を消されたアナもまた、孤独に成長して行く。年月が経ち、国王・女王である両親の死去により、成人したエルサ(声:イディナ・メンゼル松たか子)は女王として王位を継承する事になる。久々に姉妹で気まずい再会をした戴冠の日だったが、自らの力を制御出来ずに王国を雪と氷の国に変えてしまったエルサは、動揺し、山へと逃亡してしまう。アナ(声:クリステン・ベル/神田佐也加)は、姉と王国を救うべく、山に向かうが。


かつては面白い作品を連発していたピクサーが、このところ自己再生産を繰り返してばかりで凋落が止まりません。一方、そのピクサーを買収して自社に取り込んだディズニーは好調です。昨年の『シュガー・ラッシュ』といい、これといい、古典的ディズニー・アニメ映画のフォーマットに則りながらも、現代的な内容の優れて面白い作品を連発しています。いや素晴らしいと思っていたら、どちらもジェニファー・リーの脚本によるものでした。本作は彼女の初監督作品でもあります(クリス・バックとの共同監督)。リー個人の功績も大きいので、ディズニーのさらなる黄金期が続くのかどうかは、まだ見守る必要があるとして、これは間違いなく傑作です。


映画を観ながら、「アンデルセンの『雪の女王』を原作にしていた筈なのに」など難癖つけるのは野暮というもの。私もこんな話だったっけと思っていたのですが、実際のところはオリジナル作品と言って良いでしょう。ここはアナとエルサの数奇な冒険と運命、そして彼らの旅で出会う愉快な仲間達を純粋に楽しみましょう。短時間で観客の心を掴む話術、個性豊かな人物造形、随所に挿入されるユーモアと、古典的なディズニーアニメ映画のノウハウが生かされています。ここら辺は老舗の伝統の強さを感じました。


人物造形で1番目を引くのは、やはりヒロインの2人です。明るく行動的、強気な…でもやや短絡的な性格のアナと、内省的で思慮深く、だが自らをコントロールできないエルサ。しかし山に逃亡したエルサは、孤独になって初めて自己を解放していくのです。ここで歌われる「Let it Go」の場面は、映画史に残る事でしょう。ドラマと映像と歌が一体となり、壮観でカタルシス満点で感動的です。映画のハイライトを前半に持って来る作者達の度胸も満点。ロバート・ロペス&クリステン・アンダーソン=ロペス夫妻による魅力的な楽曲と、イディナ・メンゼルの熱唱もあって、何度でも繰り返して観たくなる数分間となりました。実のところ、ミュージカル場面は殆どが前半から中盤にかけて集中しており、後半はミュージカルは排除されたドラマ色、アクション・アドベンチャー色が強くなってきます。ミュージカル好きとしては少々物足りなく感じますが、これは現代的な映画として致し方ありません。しかしここで聴ける楽曲の数々は、極上の楽しさに溢れています。序盤に歌われる「生まれてはじめて」は、戴冠式での舞踏会を心待ちにする解放感溢れるアナと、誰にも自分の能力を知られたくないエルサの歌が交わり、対象的な心情が同時進行で歌われる、これぞミュージカルならではのドラマティックさ。アナと、知り合ったばかりの王子ハンスとのコミカルなデュエット「とびら開けて」は楽しいし、エルサが創り出した雪だるまのオラフが歌う「あこがれの夏」は愉快です。ミュージカル映画の、そしてアニメーションならではの、誇張や省略が活かされた作りが嬉しい。


この作品が多くの支持を集めているのは、恐らく人物造形にもあるのではないか、とも思います。アナとエルサだけではありません。トナカイの相棒スヴェンと共に氷を運ぶ生業をしている、不器用で無骨な、でも心根優しい青年クリストフ。あるいは夏を夢見る雪だるまオラフ(当然、夏には雪だるまは溶けてしまいますが、そんな事は思いも寄らないのです)。彼らの誰かに感情移入する人は多い事でしょう。


物語は起伏に富み、ディズニー映画としては予想を裏切られる展開も終盤に幾つか用意されています。その最大のものは、ディズニー映画で取り上げられる事の多い「真実の愛」でしょう。この視点こそが現代ならではの映画にしている最大のものです。だから一部で言われている「最後まで救世主(王子)が現れない」といった批判は、むしろ古色蒼然たる視点だと思いました。


ディズニーアニメでも傑作の部類に入る本作。これを劇場で見逃す手はありません。


尚、同時上映の短編映画『ミッキーのミニー救出大作戦』もスラプスティックな楽しさに溢れた作品です。


アナと雪の女王
Frozen

  • 2013年|アメリカ|カラー|102分|画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):G
  • 劇場公開日:2014.3.14.
  • 鑑賞日:2014.3.21.(1度目)、2014.3.23.(2度目)
  • 劇場:イオンシネマ港北1(1度目)/TOHOシネマズ横浜ららぽーと1(2度目)デジタル上映鑑賞。公開2週目の3連休初日の金曜14時40分からの英語2D版上映の回、388席の劇場は6割程の入り(1度目)。/公開2週目の日曜9時00分からの日本語吹替え2D版上映の回、401席の劇場は7割程の入り(2度目)。
  • 公式サイト:http://www.disney.co.jp/movies/anayuki/ 予告編、作品情報など。BD/DVD発売の宣伝告知となってからは、かなり簡素な作りになっている。