アンヴィル!夢を諦めきれない男たち



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。


ハードロックやヘヴィメタルにまるで興味が沸かない僕でも、ボン・ジョヴィ、スラッシュ、ホワイトスネイク、ガンズ&ローゼズ、メタリカといったバンドくらいは知っています。しかし実は彼らに多大な影響を与えたという、カナダはトロントを拠点に活動するバンドのアンヴィルは、名前も含めてまるで聞いたことがありませんでした。後にビッグになる他のバンドに大きな影響を与えたにも関わらず、本人たちの栄光は一瞬のみで、その後はまるで鳴かず飛ばず。ヴォーカルも含めてテクニックはあるのに。


1974年の結成時からのオリジナル・メンバーは、ギター兼ヴォーカルのスティーヴ・"ザ・リップス"・クドローとドラムスのロブ・ライナーの2人。共に50歳を越え、髪も薄くなり、顔には皺が刻まれています。普段は給食センターや工事現場などの仕事に付き、その合間にアンヴィルとしてバンド活動をしているのです。


映画の前半はヨーロッパツアーの珍道中が描かれます。異国の地で道に迷ってコンサート会場に着けない。遠距離移動用の電車に乗り遅れる。会場では数人しか客がいない。主催者側とモメてギャラが出なくて喧嘩になる。ダメダメな様子が捉えられているこの前半が余りに面白いので、やらせじゃないかと思う向きもありそう。実際、少年時代からアンヴィルのファンだった監督サーシャ・ガヴァシも、「ひょっとして彼らに担がれているのでは?」と思って撮影していたとか。


映画は幼馴染み同士のクドローとライナーの2人をメインに描きます。常に熱く燃えて言動が大袈裟なクドローと、冷静で口数の少ないライナー。対象の妙も面白く、また音楽ドラマでお馴染みの音楽への情熱や、結束の固さ、解散の危機を招く仲違い等があり、見ていて飽きさせません。普通の劇映画にあるべき要素が、ドキュメンタリの本作にもあるのです。


映画は同時に彼らの家族にもスポットライトを当てます。ユダヤ人一家に生まれ育った2人に対して、きちんとした収入のある仕事に就かず、バンド活動メインに生活する様を理解できない兄弟もいますが、それでも自分なりの理解を示す。「ひょっとして、いつかビッグになる夢を自分も見ているのかも知れない」と話す妻。結婚も出産もバンド活動に合わせた妻の話は面白いものですが、同時に献身をも強く感じさせます。この映画が印象的なのは、出来事も痛くて笑えるのですが、このように2人の家族も描かれているからです。家族は2人を冷静に見ながらも、決して見捨てません。発売される当ての無いアルバムを録音するのに費用が足りないと、お金を工面してあげる姉の場面も感動的です。妻や子供、兄弟らに見守られて好き勝手やっているクドローとロブ・ライナーは、本当に幸せものです。が、同時にこの2人も、自分たちが家族の支えがあってこその幸せものだと自覚しています。こうして映画は、「単に笑える」映画から、「男同士の友情もの」「温かな家族」映画にもなっています。


悪戦苦闘している彼らに、まさかの贈り物があるのがクライマクスになるのですが、これが本当に本当かいなというくらいに出来過ぎ。しかも盛り上がります。


物語があり、ドラマが描かれ、笑いと感動がある。『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』はお薦めの映画です。機会がありましたらお見逃しなきよう。


アンヴィル!夢を諦めきれない男たち
Anvil! The Story of Anvil

  • 2008年 / アメリカ / カラー / 90分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):PG12
  • MPAA(USA):Unrated
  • 劇場公開日:2009.10.24.
  • 鑑賞日時:2009.11.8.
  • 劇場:TOHOシネマズ ららぽーと横浜1/ドルビーデジタルでの上映。公開3週目のシネコン最大の309席の劇場の18時00分からの回は、40人程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.uplink.co.jp/anvil/ 予告編、アンヴィルについて、キャスト&スタッフ紹介、各界著名人からのコメントなど。