それでも恋するバルセロナ



★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

親友同士であるアメリカ人学生のヴィッキー(レベッカ・ホール)とクリスティーナ(スカーレット・ヨハンソン)が、ひと夏を過ごすべくバルセロナにやって来た。堅実な優男の婚約者のいるヴィッキーは明確な自分の未来を思い描き、そこから外れたくない女。一方のクリスティーナは、自分探しをしながら奔放な恋に身を任せる女。2人は野生的な画家のフアン(ハビエル・バルデム)に口説かれて、ついつい関係を持ってしまう。が、情熱的過ぎて彼を刺したことのある天才画家の元妻マリア(ペネロペ・クルス)が、フアンを追い掛けて来る。


複雑に入り組んだプロットを半ば強引に要約すると、こんな感じになります。この入り組み具合、しょうもない人間関係が引き金となる展開が、この作品の面白さ可笑しさ。これを混乱させることなく分かりやすくさばく手腕が、語り口が、長年コメディを中心に人間を描き続けて来たウディ・アレンの名人芸なのです。話の内容は結構際どく、予想外の展開も笑えますが、恋に翻弄される人間のおかしみと哀しみが前面に出るのが、この監督兼脚本家らしい。小難しい展開を、一切の無駄無くテンポ良く描く為にアレンが採用したのが、全編にかぶさる男声ナレーション。これが冷徹そのもので、登場人物の紹介からそれぞれの内面までを語っているので、余計な人物描写・性格描写も入っていません。またこのナレーションの冷たさのお陰で、終盤の大爆笑ポイントが発生しています。


映画の見所は多彩なキャストと、バルセロナを中心とした観光スポットです。主演の男女4人に始まり、パトリシア・クラークソンケヴィン・ダンといった脇役まで皆達者というか、好演というか、役に合っています。レベッカ・ホールは女版ウディ・アレンじゃないか、とちょいと思わせる役どころ。彼女がしっかり描かれている為に、浮ついた展開であっても観客の目と心を画面から離しません。ホール自身も芯が通った演技でとても良かった。親友役スカーレット・ヨハンソンは、いつまで経っても大人に成り切れない女性を好演しています。しかしこの2人を吹き飛ばしかねないのがペネロペ・クルス。映画の前半ではスカーレット・ヨハンソンが目立つのに、クルスが登場すると場をさらいます。ここ何作かアレン映画のミューズだったというのに、ヨハンソンなぞ小娘にしか見えません。この扱いはアレンの意地悪なのではないか、とさえ勘ぐってしまいました。


スペイン語の早口は騒々しいものですが、クルスとバルデムの大喧嘩などは凄い凄い。繰り返しギャグとさえなっているので可笑しいのに、同時に上手く行かない男女をも描いていて、これは悲喜劇と呼べましょう。


映画全体はいつものせこせこしたアレン調ですが、フィルムに収められたスペインの空気感でが良いのです。アントニオ・ガウディの数々の建築物がフィーチャーされていて、観光映画の気分も濃厚。それでもこれを単にお洒落なお気軽コメディと思って観に行くと、意外なまでに醒めた視線にたじろぐ可能性もあります。その意味では辛らつな、いつものアレン映画でもあります。


色々な経験をしたものの、結局人は自分の定めから変わらないというラストは、はっと観客の目を醒まさせる平手打ちのよう。これは喜劇であると同時に悲劇でもあるのです。


それでも恋するバルセロナ
Vicky Cristina Barcerona

  • 2008年 / スペイン、アメリカ / カラー / 96分 / 画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):指定無し
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for mature thematic material involving sexuality, and smoking.
  • 劇場公開日:2009.6.27.
  • 鑑賞日時:2009.6.27.
  • 劇場:ワーナーマイカル・シネマズ港北3/ドルビーデジタルでの上映。公開初日の土曜18時50分からの回、120席の劇場は20人程の入り。
  • 公式サイト:http://sore-koi.asmik-ace.co.jp/ 予告編、キャスト&スタッフ紹介、壁紙、バルセロナ・ロケ地マップ、キャラ診断(恋に勝つ方法を診断!)など。