50/50 フィフティ・フィフティ



★film rating: A-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

シアトルのラジオ局に勤務する27歳の青年アダム(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は、腰の痛みを覚える今日この頃。同僚で親友のカイル(セス・ローゲン)に痛みを訴えながらも、病院で検査を受けてみると、珍しいという脊髄の癌であり、5年後の生存率は50%だと宣告されてしまう。前衛画家のレイチェル(ブライス・ダラス・ハワード)は、彼を支えると言いつつ、徐々にプレッシャーを受けている様子。一方、陽気で下品なカイルは「5割なら上等じゃないか」と言い放ち、明るく振る舞う。アダムが3人目という新米セラピストのキャサリンアナ・ケンドリック)は、ぎこちない。アルツハイマーの父の世話をしている母(アンジェリカ・ヒューストン)は、アダムのところに越して来ると言い出す。アダムは癌治療を受ける他の患者(フィリップ・ベイカー・ホール、マット・フリューワー)らと交流しつつも、厳しい治療を受けていくが。


家族、友情、恋愛を描いている、青春映画の側面を持ちながら、癌を題材にしながら暗いだけではなく明い面もあり、だからこそ忍び寄る死の影も印象的な映画でした。監督ジョナサン・レヴィンの演出の功績は大きい。主演がジョセフ・ゴードン=レヴィットだから、もっと淡々としているのかと勝手に想像していたら、それ以上に起伏のある、「ドラマティックな」映画でした。後でじわじわ来る癌宣告の衝撃。笑いと涙。面白い。


脇役もくっきりはっきりしつつ、どの人物にも血肉通っていました。ゴードン=レヴィットは喜怒哀楽も過剰にならず、上手い俳優ですね。こういう、平凡な青年役にぴったりなのに、観客に感情移入させる親近感を持たせます。それでいながら感情表現も的確。当初予定されていたジェームズ・マカヴォイでも上手かったでしょうが、ゴードン=レヴィットだからこの映画の爽やかさが出たのだと思います。親友カイル役は、先日観たばかりの『宇宙人ポール』(2011)に続いてのセス・ローゲン。明るく陽気なアメリカン役でドンピシャ。もっとも本人はカナダ人ですが。下世話だけど気の良い、理想的な相棒でしょう。癌をネタにすればナンパもしやすくなる、などと言い出す女たらし役で笑えます。そう、プロデュースがローゲン&エヴァン・ゴールドバーグという『40歳の童貞男』『スーパーバッド 童貞ウォーズ』等のコンビだからか(?)、これもブロマンス(ブロス+ラブロマンスの造語)映画の1つだったのです。アダムとカイルの間には女性でさえも入り込めないのでした。


一方の女性陣。新米セラピスト役アナ・ケンドリックは、徐々に魅力的に見えてくるから不思議ですね。『マイレージ、マイライフ』(2009)の上昇志向の強い新人役で鮮烈な印象を受けましたが、こちらはあちらとは微妙に違った役というのも面白い。似て非なる役で印象も違うのですが、魅力的に描かれていたと思います。恋人役ブライス・ダラス・ハワードも好調な役者なんですね。癌患者を支えるプレッシャーを、微妙なさじ加減のユーモアで演じていました。母親役は久々アンジェリカ・ヒューストン。だから貫禄のある役か…と勝手に予想していたら、こちらも軽やかな、でも上手い。さすが名女優です。


自らの経験を基にして執筆したというウィル・レイサーの脚本は着眼点が非常に面白い。若き男性癌患者を主人公にした、笑いをふんだんに盛り込んだ青春映画なのですから。カイルのモデルは実際にセス・ローゲンだそうですが、虚実ないまぜの内容なのでしょう。だからか、映画として観客の興味を引く展開も盛り込んでいます。正直に言って恋愛のくだりはもう少し説得力欲しい気もしましたが、恋人との別離は納得がいくものでした。癌患者を支えるのって、周囲の人間にとっては精神的にも肉体的にも大変でしょうから。ただこの映画、脚本家自身の体験を元にしている…という説明が無かったら、癌を扱った青春コメディとして不謹慎だ、という批判がひょっとしてあったかも知れないな、とも感じました。それだけ慎重な題材を扱いつつ、でもシリアスかつ軽やかに描いた佳作だと思います。また興味深かったのは、癌と判明すると即患者に宣告する事。これって以前より変わったとは言え、今の日本ではまだまだ考えられない事なのではないでしょうか。また肉体面の治療だけではなく、同時にセラピーも受けさせるというのも、精神面でのケアも重視するアメリカ医療なのかな、と思いました。


お薦めです。


ところで、私の小学校6年間の同級生にTMという男がいます。彼が劇場支配人だったときの若い部下・菱沼一茂さんという方が、実際に20代で癌になったとか。ウィル・レイサー来日時に、その菱沼さんと対談している広告宣伝記事がこちらになります。


50/50 フィフティ・フィフティ
50/50

  • 2011年|アメリカ|カラー|99分|画面比:1.85:1
  • 映倫(日本):PG12(麻薬の吸引と性的台詞がみられるが、親または保護者の助言・指導があれば、12歳未満の年少者も観覧できます。)
  • MPAA (USA):Rated R for language throughout, sexual content and some drug use.
  • 劇場公開日:2011.12.1.
  • 鑑賞日:2012.1.2.
  • 劇場:/ららぽーと横浜TOHOシネマ10 デジタル上映。朝9時20分からの回は私を入れて7人の入り。
  • 公式サイト:http://5050.asmik-ace.co.jp/ News Blogでは、関西で活動中芸術家達による映画をモチーフした作品競作の紹介が。がん医療情報に関するリンクが複数設置されている。