パニッシャー


★film rating: B
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

元FBI潜入捜査官フランク・キャッスル(トム・ジェーン)は、現役を退いた後は家族との時間を過ごす筈だったが、組織によって家族を皆殺しにされてしまう。キャッスルは組織のボスであるハワード・セイント(ジョン・トラヴォルタ)とその部下たちへの復讐を誓う。


ダイ・ハード3』(1995)、『アルマゲドン』(1998)と、あまり感心出来なかった脚本家のジョナサン・ヘンズリーの監督デヴュー作。職業柄、本来得意な筈の脚本は、これがあちこち穴だらけ。警察側の動きが全く不明だが、捜査はどうなっているのか。キャッスルの根城を突き止めたのなら、何で組織をあげて総攻撃してこないのか。こういった疑問が次々と出てくるくらい、粗雑さが気になってくる。


いや、これがコミックものの映画化、というのは分かっている。街のダニを退治すべく”制裁人”となった男を主人公とした原作コミックは、かつてドルフ・ラングレン主演によって1989年に映画化されたこともある。今回は版元のマーヴル直々に製作した映画なので、恐らくこちらの方が原作に近いのだろう。主人公がトレードマークのドクロTシャツ着ているし。ラングレン版は着ていませんでしたな。そんな意味でも「これがパニッシャー決定版だ」とのお墨付き映画と思って良いのではないだろうか。


しかし全体にリアリズム・タッチの描写で、全体に暴力的で、つまりは大人向けに作られている映画の筈なのに、細部どころか基本的なところで粗が目立つのは、脚本の欠陥によるものである。コミックものの映画だから、などというつもりではないのだろうけど、きちんとすべき点はきちんとしてもらいたい。まぁ、これは元々筋肉系の脚本家ヘンスリーとしては予想されたことではあった。これで演出も筋肉パワーがあるならばそうは気にならなかったのであろうが、意外に手堅いものの、全体の調子はそこまではいっていない。


ヘンズリーの功績としては、キャッスルが住む荒廃したアパートの住民たちとの場面だろう。暴力男に付きまとわれるウェイトレス(レベッカ・ローミン=ステイモス)、顔中ピアスだらけのオタク男(ベン・フォスター)、内気な肥満男(ジョン・ピネット)の面々が、暖かくキャッスルを迎える様子は、殺伐とした復讐劇に希望を加えている。特に、ウェイトレスとキャッスルが恋仲になる安易な展開にならないのは好感が持てる。


監督としては全体に力強いとまではいかないが、要所でパンチを効かせたアクション/暴力描写を見せつけ、まずは及第点ではないだろうか。キャッスルが組織側の小物をひっとらえて脅す場面なども中々面白く撮っている。元特殊部隊隊員で武器の達人であるキャッスルが、重火器や爆弾で完全武装してセイントの根城に乗り込み、ドカンドカンと派手に手下どもを倒し、セイントとの一騎打ちに雪崩れ込む終盤がさらに盛り上がるとカタルシス満点で良かったのだが、そこはまだ力不足のようだ。


キャッスルを演じるトム・ジェーン(トーマス・ジェーン)は、筋骨隆々に肉体改造を施し、クリストフ・ランベールをさらに暗くしたかのような顔つきで暗い役を演じているものの、まぁ取り立てて面白味はない。やはりこの手の映画は敵や脇の方が面白い。新鮮味は無いけれども、トラヴォルタお得意の憎々しげな悪役演技。出番は少ないもののキャッスルの父親役を説得力を持って演ずるロイ・シャイダーの魅力的な皺。妻役でお久しぶりのサマンサ・マシス。上記愛すべき隣人たち。こういったお楽しみがある。一方で、組織のナンバー2役ウィル・パットンはネチネチした演技も得意な筈なのに、単にゲイのサディストという役柄で、いつもほどの冴えが無かったのは残念。セイントの妻役ローラ・ハリングもゴージャスなビッチとしては物足りない。この2人の敵役は描き込み不足により魅力が薄くなっているのが惜しまれる。


ラストでパニッシャー誕生を描く映画は、北米での興行成績からして今後続編が作られる可能性は薄いものの、それなりに楽しめるアクション映画としての価値はある。


パニッシャー
The Punisher

  • 2004年/アメリカ、ドイツ/カラー/124分/画面比2.35:1
  • 映倫(日本):PG-12指定
  • MPAA(USA):Rated R for pervasive brutal violence, language and brief nudity.
  • 劇場公開日:2004.11.13.
  • 鑑賞日:2004.11.22./ワーナーマイカルシネマズつきみ野2 ドルビーデジタルでの上映。飛び石連休谷間の平日月曜10時50分からの回、161席の劇場は20人程度の入り。
  • 公式サイト:http://www.sonypictures.jp/movies/punisher/site/ プロダクション・ノート、予告編などの他に、トラ崇拝(?)の「トラボルタの殿堂」、「クーラーがガンガンに効いた部屋で、『カキ氷』を無理矢理喰わせ続ける。」などと超クールな(?)戒めを一般公募した「制裁部屋 パニッシュ・ルーム」、「制裁ゲーム パニッシング・ポイント」など、アホなページもあり。