ウルフ・オブ・ウォールストリート



★film rating: B+
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

1990年代初頭。ウォール街にやって来た無垢な若者ジョーダン・ベルフォート(レオナルド・ディカプリオ)は、一般人から金をむしり取る術を身に付け、やがて26歳で自ら証券会社を設立。アコギな商売で次々収益を増やし、会社の規模を大きくして行く。若き億万長者となった彼は豪邸に住み、モデルのような美女ナオミ(マーゴット・ロビー)を妻にし、豪華クルーザーを買い、セックスとドラッグにまみれ、人生を謳歌するのだ。だがウォール街の寵児となったベルフォートにも、落日が近付いてくる。FBI捜査官デナム(カイル・チャンドラー)に目を付けられるようになったのだ。


演技過剰、ナレーション過剰、映像過剰、音楽過剰、札束過剰、ドラッグ過剰、セックス過剰。上映時間だって2時間59分もあります。これは何もかもが過剰な、痛快ブラック・コメディ映画でした。


マーティン・スコセッシレオナルド・ディカプリオのコンビ作品、そう『ギャング・オブ・ニューヨーク』『アビエイター』『ディパーテッド』『シャッター アイランド』といった作品群にどこか首をかしげる人が多いそうです。かくいう私もその1人。もっとも私は『ディパーテッド』だけは支持しますが。そして『タクシードライバー』や『レイジング・ブル』といった、往年のスコセッシ&デ・ニーロ作品に想いを馳せ、「あぁ何でスコセッシはレオとコンビを続けるのだろう。早く別れてしまえば良いのに」、と嘆息する向きもありましょう。しかしその嘆息も過去のものとなりました。ここのところ暫く、持ち前のパワーと輝きを失いつつあったスコセッシ作品としても、これは会心作でしょう。『グッドフェローズ』の疾走感こそ薄いものの、ぐいぐいと太いタッチで人物を中心に映画を進めるのは、スコセッシならでは。久々の本領発揮です。


モラルのかけらもない自己中心的な登場人物が殆どという、スコセッシのギャング映画と似通った異世界を描いたこの映画は、ウォール街に巣食う、搾取を生業とした男達の映画でもあります。映画の冒頭で描かれているのは、オフィスで行われているパーティ。そこでは、小人を的に向けて投げつけて点数を競い、嬌声を上げている男女達が大勢います。このオフィスではストリップや乱交パーティ、ドラッグの吸引が行われるのは日常茶飯事。狂乱ここに極まれりの異空間なのです。めまいがするような会社ですが、主人公ベルフォートの周囲では、それが当たり前なのです。


そんな世界で異彩を放つのが、これも異様な造形の登場人物ばかり。うぶだったベルフォートを金儲けの権化に変えた上司ハナ役のマシュー・マコノヒーは、近年、すっかり目が離せない役者となりましたが、ここでも妙な歌を聞かせてくれ、笑わせてくれます。若者を毒すには十分に魅力的な、そして毒気たっぷりな男役を、マコノヒーは怪演していました。副社長としてベルフォートの右腕となるドニー役のジョナ・ヒルは、出っ歯にメガネの外見と耳障りなしわがれ声を武器に、見るからに不快で、ずるがしこく、ねちっこく、とても友人にしたくないヤツ。しかしヒルは、間抜けでどこか憎めない暴走男を演じています。オフィスで見せる彼のとある奇行は、『ワンダとダイヤと優しい奴ら』のケヴィン・クラインへのオマージュでしょう。他にも見るからに頭の悪そうなベルフォートの忠実な部下達等も笑わせてくれます。脇役で特に気に入ったのは、ベルフォートの父親でした。近年は監督としてすっかり冴えないとの評価を受けているロブ・ライナーが、温和且つかっとなりやすく口汚い父親を演じていて、これもたっぷり笑わせてくれます。ウディ・アレン映画でも笑わせてくれた元々コメディアンだった彼を、今後もスクリーンで観てみたいものです。


ここ10年ばかりのディカプリオには、常に深刻ぶって眉間に皺を寄せてばかりのワンパターン演技で、少々辟易させられていました。『華麗なるギャツビー』に本作と、最近は柄に合った役と出会えて良かった。ここでは自らの悪に自覚的でありながら、享楽的な人生の謳歌を続けるべく七転八倒する男を快演しています。露悪的なまでの性格の悪さや往生際の悪さ等、近年の役柄と似通っている部分が気には掛るものの、普段よりもオーヴァーアクト気味なのが、このスケールの大きく、しかし結果的に個人に収斂していくブラックコメディに似つかわしいものでした。


ウルフ・オブ・ウォールストリート
The Wolf of Wall Street

  • 2013年|アメリカ|カラー|179分|画面比:2.35:1
  • 映倫:R18+(大人向きの作品で、極めて刺激の強い性愛描写、各種麻薬の常用、及びヌード表現、性的台詞がみられ、標記区分に指定します。)
  • MPAA (USA): R(Rated R for sequences of strong sexual content, graphic nudity, drug use and language throughout, and for some violence.)
  • 劇場公開日:2014.1.31.
  • 鑑賞日:2014.2.10.
  • 劇場:横浜バルト9 シアター11/デジタル上映鑑賞。飛び石連休の谷間、平日月曜11時半からの回は30人程の入り。
  • 公式サイト:http://www.wolfofwallstreet.jp/ 予告編、作品紹介など。