ペントハウス



★film rating: B-
※A、B、Cの3段階を、さらにそれぞれ+、non、-で評価しています。

マンハッタンの超高級アパート、ザ・タワーで勤務する警備マネジャーのジョシュ(ベン・スティラー)は有能かつ人望の厚い男。だがある日、タワーの住人であり、ジョシュのオンライン・チェスの好敵手でもあるウォール街の大物アーサー(アラン・アルダ)が、証券詐欺容疑で逮捕されてしまう。しかもアーサーは、ザ・タワー従業員の年金を横領してしまったのだ。裏切られたジョシュらは、前科者スライド(エディ・マーフィ)、義理の弟チャーリー(ケイシー・アフレック)、元証券マンのフィッツフュー(マシュー・ブロデリック)らを率い、アーサーの隠し財産を強奪する為にペントハウスを襲撃するが。


私自身はこの手の犯罪映画もコメディ映画も大好きです。しかも本作の場合、主演はベン・スティラーとエディ・マーフィだし、監督は『ラッシュアワー』シリーズや『レッド・ドラゴン』といった、手堅い娯楽映画監督のブレット・ラトナー。設定と役者の顔触れから期待してしまいます。冒頭の人物紹介が歯切れ良く、これは面白くなるぞ…と期待させられる出だしでした。マシンガンの連射を思わせるマーフィのトークと、マジメに困ったスティラーの取り合わせは楽しいし、アフレック弟のアホさも面白く、ブロデリックの凋落振りも楽しい。おまけにマーフィ演ずるスライドという男は、タダでは食えない男。こやつが素人犯罪集団を引っ掻き回します。これで映画が詰まらなくなったら、スタッフはボンクラも良いところです。


しかし残念ながら、ラトナーは今回はボンクラでした。いえ、脚本を書いたテッド・グリフィンとジェフ・ナサンソンがボンクラとまで言わずとも、不調だったようです。グリフィンは『オーシャンズ11』(まぁまぁでした)と『マッチスティック・メン』(中々)があるし、ナサンソンは『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(これもまぁまぁ)があります。切れ味鋭いとまで言わないまでも、そこそこ実績がある2人にしてはと言うべきなのか、あるいはそこそこの実績通りと言うべきなのか、本来わくわくするべき後半の犯行になると、ナマクラ振りを発揮してしまっています。その場限りの面白さはあるけれども、物理的に「ありえない」場面と展開が続出では、こちらが白けてしまいます。スパイ大作戦のような緻密な計画を練る強奪物ならば、少なくとも物理的、論理的な緻密さは外さないでもらいたい。ですから、最後の種明かしも「どうやって?」と思えども、まるでスカッとしませんでした。これは脚本がパスのミス連発していたからです。


期待していたコメディ要素も同様。特に勿体無いと思ったのはエディ・マーフィです。途中まで混乱を引き起こして笑わせてくれたのに、終盤はいつの間にか大人しくなってしまっています。傍若無人、唯我独尊に振る舞っていたのに、何故大人しくなったのか。だったら強力な動機が欲しい。設定や人物は面白いのに、それらを生かせない脚本がダメなハリウッド映画の典型に見えました。好きなジャンルなのに残念です。


ただ、まぁ、ハリウッド娯楽大作映画の常として、どこか面白い箇所が残っているのは救いでした。感謝祭パレードの場面など、娯楽映画にふさわしいお祭り気分で楽しかったですね。それとマンハッタンが舞台なので、以前行った旅行を思い出しました。見所である後半に用意されている高所場面は、先日観た『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』よりもハラハラしました。VFXを使っているのが明らかにも関わらず、です。トム・クルーズよりも、こちらの弱っちい面々の方がスリルを呼ぶのが可笑しいですね。ここら辺、名匠ダンテ・スピノッティの撮影と、クリストフ・ベックの音楽は冴えていました。FBI捜査官役のティア・レオーニは、ハスっぱな役作りで面白かった。


映画を観ながら思ったのは、故ドナルド・E・ウェストレイクの「憂鬱なる天才犯罪プランナー」ドートマンダー・シリーズを、今なら上質な映画に出来るのでは?という事でした。このシリーズ、小説版は大好きなのに映画版は評判芳しくないのでどれも未見。でもドートマンダーと愉快な仲間達は、皆個性豊かだし、内容も二転三転するものばかりで、映画向きだと思うのです。今映画化するなら、キャスティングは…ベン・スティラーのドートマンダー、結構イケるんじゃないでしょうか?いつも陽気でロクでもない案件ばかり持って来る従兄弟のケルプには、エディ・マーフィで。…え?『ペントハウス』と同じじゃないかって?脚本と監督変えて作り直してもらいたいと思ったくらいに、本作は勿体無く思ったのでした。


ペントハウス
Tower Heist

  • 2011年|アメリカ|カラー|104分|画面比:2.35:1
  • 映倫(日本):G
  • MPAA(USA):Rated PG-13 for language and sexual content.
  • 劇場公開日:2012.2.3.
  • 鑑賞日時:2012.2.12.
  • 劇場:ららぽーと横浜TOHOシネマ4/デジタル上映。公開3日目の日曜20時55分からのレイトショウ、113席の劇場は観客は私も含めて20人程度。
  • 公式サイト:http://penthouse-movie.com/ 各登場人物ごとFacebookのアカウントがあるのが可笑しい。しかもそれぞれのキャラの「友達」が、ちゃんと各キャラだし、各キャラのつぶやきに対して他のキャラが突っ込み入れている(^^